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クリエイター名 |
依 |
モノクロの世界、色彩フォビア
モノクロの世界、色彩フォビア
────それは、遠くなった世界への怯え、逡巡。
☆たすけて、ときみが呼んだ。
しろいはだに髪を散らして、君のひとみはフローライトのようになめらかで瑞々しく幻想的な灯を揺らしていた。
────ああ、そうか、きみはしぬんだね。
死を看取るのは初めてじゃない。それは悲しいことだけれど、それを割り切る術を身に付けてしまう程には、僕はそれを何度も見て送って来た。それでも。
『死にたくない』
そう、願った彼女があまりにも小さくて(あまりにも美しくて)、僕は手を伸ばした。僕が今得た一度だけ助けることのできる力、それを振るうことは彼女のためにはならないかもしれないと僕は識っていたけれど。…………そう、僕が今まで見送らなくてはいけなかった命を助ける代わりに(助けられなかった僕を救うために)、きっと彼女は僕によって助けられた。人は我儘で独善的で、それは当たり前で愛しくもあるものだから、僕は僕の独善を受け入れて、きみは生を繋ぎ止めるために僕の独善を細い両手を伸ばして受け入れた。
溶け合った僕らはひとつになったけれど、傷付き過ぎたきみの心はもうすでに冷たい石のように硬化していたから、僕らは心まで解け合うことはない。────僕は君の心のうちで冷たくなった君を抱えてその傷を眺める。温かい血は依然流れて君を生かすのに、今は僕にしか見えない(僕にも触れられない)君の傷がとても哀しかった。 少しはっきりした頭で、僕は君にもう一度誓った。 意識を手放した彼女の身体を動かして、僕は広がり始めた炎の輪を飛び越えて外へと飛び出す。
────そこは僕の知らない世界だった。
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