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クリエイター名 |
いずみたかし |
サンプル
アリシアがこれほどひどいヤツだとは思わなかった。待ち合わせの喫茶店の入り口には「ケーキ食べ放題六ドル五〇セント」と書かれた緑色の看板が無言で客引きをつとめてい た。 クリスは小さいときから遊園地が大好きだった。でも、こんな遊園地は大嫌いだ。クリスが案内されたテーブルの目の前には、ガラスケース越しに色とりどりのケーキが遊園地の乗り物のように楽しげに並べられていた。赤、黄色、ピンクとさまざまな色で飾り付けられたケーキは順序良く並べられていて、まるでおとぎの国のメリーゴーランドや乗り物のコーヒーカップのようだった。 「あぁ、あんなケーキの中に埋もれてみたい……」 いつの間にかクリスの口の端からよだれがこぼれ落ちそうになっていた。ふとガラスケースの向こう側の鏡を見ると、そこにはいつの間にかショーケースにへばりついてケーキを食い入るように眺めているみっともない自分の姿が映し出されている。 いけないいけない。そう思いながら、クリスは自分が座っていた席へと戻っていった。オーダーしていたミルクコーヒーを口にしながら、まだ姿を現さないアリシアのことを考える。今日も彼女は栗毛色のソバージュの髪でにこやかに姿を現すのだろう。顔では笑っていたとしても中身は悪魔の女の子だ。こんなに誘惑の多い場所で待ち合わせをしなくてもよさそうなのに。 おいしそうなケーキ……全部食べてしまいたい。でも。いま甘いものを食べてしまうと、今までの努力が全部無駄になってしまうかもしれない。そうなればアリシアからどんなお仕置きを受けることになるか。 この世界を破滅させてしまうためにはもう少しだけの辛抱なのだ。この世界を破滅させて無事に家へと帰りつけば、母上の作るおいしいケーキがいやというほど食べられるのだから。
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