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クリエイター名 |
佐伯七十郎 |
時が動いた瞬間
時が動いた瞬間
寝苦しさで目が覚めた。辺りを見渡せば真っ暗。更に眼鏡をかけていないせいで何も見えない。慌てて眼鏡に手を伸ばすが、別に何を見るわけでもないなと思い直して、また布団に潜った。けれど一度目覚めた脳はなかなか眠りに落ちてくれず、私は横にかけたジャケットから携帯電話を取り出して時刻を見た。腕時計ははめているけど、暗くて見えない。 時刻は午前二時二十六分だった。携帯電話のディスプレイの明るい光を毛布に隠す。背中が痛くて身体を横にすると、隣で寝ている人が見えた。私が寝る前までは仲間の人たちと散々騒いでいたのに、私が起きると寝ている。何だか妙に悔しい。 ここはバスの中だった。田舎に帰る夜行バス。飛行機よりも電車よりも安くていいのだが、百四十度くらいまでしか傾かない椅子の上は凄く寝辛い。やっぱり高くても電車にすればよかった。帰りは絶対電車で帰る。 そんなことを考えつつ、私はまた時刻を見た。二十七分。一分しか経っていない。もっと経ったと思ったのに。 目をつむっても睡魔はやって来ない。来て欲しくないときにわらわらとやって来て、来て欲しいときには一匹も来ないなんて、なんて酷い悪魔だろう。ああ、だから悪魔なのか。 時刻を見た。二十七分。数字は変わっていない。私は眉をひそめて携帯電話を毛布に包んだ。バスが田舎の駅に着くのは朝の六時。それまで、何をしていればいいのか。眠れば一瞬なのだが、それを取り上げられた私に、一体何をしろと言うのか。 毛布の中で携帯電話を覗く。数字はまだ二十七から変わっていない。ちょっと上下に振ってみる。変わらない。念を送ってみる。変わらない。全く時間が進まない携帯電話に、私はイライラしてきた。早く実家に帰りたいのに、時計は全然急いでくれない。早く早く。
ぱっ。二十八分。あ、動いた。瞬間、ちょっと嬉しかった。
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