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クリエイター名  あきのそら
危険な彼女のプレゼント

『危険な彼女のプレゼント』

「ふんふーんっ♪」
 あの日、私は鼻歌混じりにスキップしながら夕焼けこやけの廊下を歩いていた。
 それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから!
 高校三年、高校最後の誕生日。
なんでかみんなは余所余所しくて、プレゼントだって一つも貰っていないけど、放課後下駄箱覗いてみたら!
『教室で待ってるわ プレゼントより』
 なーんてちょっぴりロマンチックな置手紙!
 もお、みんなったらぁ!そんなサプライズ良いのになぁーっ!
 そんなわけで沈み気味だった気分がめちゃくちゃ上がった私。
「みーんなーっ!」
 ガララッ、と勢いよくドアを開けると、そこに居たのは。
「あら、いらっしゃい」
「あ、え?鈴木さん?」
 たくさんのプレゼントが乗った机と、クラスであまり話したことのない鈴木さんだけだった。
「ごめんなさいね、みんなは居ないの」
 全然申し訳なさそうな鈴木さんの態度も気になるけど、鈴木さんがなんで居るのかのほうが気になっていました。
「あの、下駄箱の手紙って…」
「そう、ワタシよ」
「ぷ、プレゼントって…?」
「ココの、ぜーんぶ貴女へのプレゼントだそうよ。みんなから預かってきたの」
「預かってきた!?」
「ほら、コレなんて」
 綺麗な飾りがついてて、ハートのシールで綴じられた便箋。
「貴女へのラブレターだそうよ」
「ら、ラブレター!?それを、渡しに?」
「いいえ、破りに」
「えっ」
「びりっとな」
 ――ビリッ!
「あ、あーっ!」
「こっちはアナタへのチョコとメッセージカードよ。はいバキッ」
「あーーー!」
 そうして次々と出てきては粉砕されていくあれやこれやのプレゼントたち。
「う、うぅぅ…どうしてこんなことを…およよ……」
 為す術も無くただただ破り捨てられていくプレゼントたちを見守るしかない私はついに膝をついていました。
「最期にコレ。ワタシからのラブレター」
「えぇっ!?」
「はいびりーっ」
「あーちょ!ちょっと!」
「どう?」
 子供みたいに小首を傾げながら、聞いてくる鈴木さん。
「もう…鈴木さんがわからないです…」
「なら、教えてあげる」
「えっ」
 粗方プレゼントを粉砕し終えた鈴木さんは、黒板へと向かった。
「今日の朝、好きなパンがやっと買えたんじゃない?」
「えっ、そ、そうだけど、なんで知ってるの」
 言いながら、鈴木さんはパン屋さんと書いていく。
「ま、まさか、毎朝商品を並べる時に無理やり全部買ってくお客さんって」
「そう、ワタシ」
 ニッコリ笑いながら、パン屋さんに花丸をつけていく鈴木さん。
「自転車置き場も、今日は水たまりが無かったんじゃなかったんじゃないかしら?」
「そ、そう、だけど……え、じゃあ、あの水たまりを毎朝作ってたのも」
「そう、ワタシ」
 駐輪場、花丸。
「図書室で借りようと思ってた本が必ず無いのも!?」
「そう、ワタシ」
 図書室にも、花丸。
 そうして書き連ねられていく場所、言葉、あれやこれや。
「い、いつから、こんな」
「物にもよるけど、一カ月くらい前からかしら」
 小首を傾げて、わざとらしく思い出す仕草を取って見せる鈴木さん。
「ひぇぇ」
 全然顔が、悩んでるって顔してないよぉ。
「ねぇ、分かってくれた?」
 スッと差し伸べられる手。
 絡め取られる私のほっぺ。
 「ワタシのこ・と」
 鈴木さんの瞳に見つめられて。
 吸い込まれそうなくらいの視線にくらつきながら、コクコクとお人形みたいに頷く。
 すると、鈴木さんは嬉しそうにニコっと笑って。
「じゃあ、ワタシからのプレゼント」
 そう言って、鈴木さんが私の胸元に抱き着いて、そっと耳を当てる。
「ステキな今日と、ステキなワタシをプレゼント」
「あっ…」
 手紙に書いてあった、プレゼントよりって言葉。
 何かの冗談っていうか、プレゼントが待ってるよって意味だと思ってたけど、そうじゃなかった。
 本当に、プレゼントからの手紙だった。
「ほら、どうしたの?」
 甘えるような声色で、手を握られて。
 鈴木さんの頭を、抱えるように促される。
「え、と」
 もう、スキップしたくなるようなワクワクは無くなっちゃったけど、でも。
 今日はちょっぴり良い事がいっぱいあった日で、だからウキウキしてて。
 そんな気持ちも全部、鈴木さんがくれたんだって思うと。
 それに、人のプレゼントとか、破ったったりして。
 でも、そういうところ全部見せてくれるのが、なんだか、鈴木さんの全部を見せられたような気がして。
 不覚にも、胸が高鳴る私は。
「いただき、ます」
 鈴木さんの頭をぎゅっと抱きしめて、彼女を受け取ったのでした。

 そして、あれから十年。
 今日も私は鼻歌混じりにスキップしながら歩いている。
 それは何故かと聞かれれば、私の誕生日だから。
 付け加えるなら、今日はお弁当のおかずが好きなものばかりで、帰りの電車で席に座れて、お気に入りのパンが買えて、誰からもプレゼントを貰っていないから。
 ガチャッと開けた玄関の先で、きっと待っているに違いない。
 あの日とおんなじ。
 たくさんのプレゼントが乗ったテーブルと、危険な彼女のプレゼントが。
「ただいま」
「―――あら、おかえりなさい」

 めでたしめでたし
 
 
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