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クリエイター名  鮎川 渓
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?北方の短い夏の日


 龍園の夏は短い。
 そう耳にしやって来たのは、レナード=クーク(ka6613)とアーク・フォーサイス(ka6568)だった。
 転移門を潜り外へ出ると、さっきまでの暑さが嘘のように、ひんやりとした風がふたりを撫でた。

「夏って言っても随分涼しいんやねぇ」

 レナードが上着の前を閉じながら言う。
 アークは石造りの街越しに望む山々を見、

「山は殆ど雪が残ったままだ」

 その白さに、極彩色の街育ちの彼はほぅっと息を吐いた。手には大ぶりなスイカを提げている。
 それでも、春に訪れた時よりも眩い日差しが、スイカをきらきらと照らした。

 散策がてら、神殿都市を眺めて歩く。
 春にふたりが訪れたのは、それまで外界との交流を一切絶っていた龍人達が、最初に催した交流会の時だった。
 最初は龍園の民は皆、余所者である自分達を遠巻きにしたものだ。

 けれど、今。

 ふたりが歩いていても、彼らは警戒するでもなく、ごく自然に受け入れている。

「ええお天気やねー」

 レナードが挨拶すると、向こうも笑顔で応じてくれた。
 アークは、春にはなかった立派なハンターオフィスを見上げる。中を覗くと、他の地方から訪れたハンター達の姿があった。
 この和やかな関係は、あの交流会を機に始まったのだ。とても嬉しく、またちょっぴり誇らしく思い、レナードはアークを見やる。アークも同じことを感じていたようで、口の端を軽く上げ頷いた。

「こうしてのんびり時間を過ごすんも、……ええ事やねぇ」
「そうだね。英気を養うことも大事だし……それを龍園で過ごせるっていうのもまた、ね」

 龍園を歪虚から守る戦いにも参加していたふたり。仲間達と共に守り抜いたこの都で落ち着いた時間が持てるというのも、なかなか感慨深いものだ。

 さて、どこへ行こうか。
 土地勘があるでなし、足の向くまま通りを歩いていると、そばの建物の戸が開いた。中から次々に龍騎士達が出てくる。その中に見知った顔を見つけ、レナードは思わず声を大きくした。

「シャンカラさんにダルマさんやー!」

 灰色の瞳が見つけたのは、龍騎士隊長シャンカラ(kz0226)と、年長の龍騎士ダルマだった。ふたりは振り向き目を丸くする。

「レナードさん、アークさん! お久し、」
「オイ、その奇妙な色した物体は何だ!?」

 シャンカラの言葉は、スイカに驚いたダルマによって遮られた。
 スイカは温かい地方が原産のため、北方の彼らにとっては未知の物だったのだ。
 アークがネットに入れ提げたスイカを、龍騎士ふたりは食い入るように見つめる。

「スイカって言って、西方では夏の定番の果実なんだよ」
「食べ物ですか! 僕はてっきり殴打用の武器かと、」

 シャンカラはおずおず手を伸ばし、スイカをつついた。コツコツと固そうな音がする。

「これを齧って食うのか? 旨そうにゃ見えねェが」

 ダルマは訝しんで眺めまわす。確かに、濃緑と黒の外見は、一見美味しそうには見えないかもしれない。

「そこは皮やからねー」
「中の実は赤くて甘いんだ」
「中は赤い!?」

 龍騎士達はもうどこに驚いていいのか分からない様子だった。
 けれどそれはふたりも同じだ。
 まさかスイカひとつでこんな驚きをもたらしてしまうとは。
 改めて、地域間によるギャップを思い知った四人だった。

 そこでようやくシャンカラが我に返る。

「すみませんいきなり、不躾でしたね。ところで今日はどのような御用で龍園へ?」
「僕ら、今日は依頼じゃないんやー」

 武器を携行していないレナードが余暇で訪れた旨を話すと、

「このスイカ、ふたりも良ければ一緒にどうかな?」

 アークも口を添える。
 龍騎士達は一も二もなく頷いた。

「是非ご相伴に預かりたいです」
「おう! そういう事なら、この時期ならではのトコに案内してやらぁ!」
「やったでーっ、皆でスイカやー♪」

 ご機嫌で歩き出そうとしたレナードだったが、がしっと肩を掴まれた。掴んだのはアークだ。何故ならレナード、案内のダルマが歩き出すより先に、あらぬ方向へ歩を進めようとしていたのだ。迷子を阻止したアークは苦笑交じりにその肩を叩くと、改めて一緒に歩き出した。



「……綺麗やー……」
「うん……これも北方ならではの景色だね」

 案内された先で、レナードとアークは思わず呟いた。
 やって来たのは龍園そばの荒野の一角。
 夏でも大部分を雪に覆われた原。その真白な大地に、清らな小川が流れている。せせらぎには水浴びに勤しむ青い飛龍や、野生の鳥達の姿が。真冬の景色と夏らしい光景とが混在する眺めに、西方出身のふたりはしばし見とれた。

「この川は今の時期だけ現れるんだ。夏の間だけ雪解け水が集まって、この流れを作ンのさ」

 ダルマはどうだとばかりに胸を張る。

「僕、水遊びしたいと思ってたんや! あそこにいる飛龍さん、触れるやろかー?」

 頬を紅潮させたレナードに、ダルマが頷く。

「ありゃ龍騎士隊の飛龍だ。行ってみるか?」
「お願いするでー!」

 レナード、今度はちゃんとダルマの後をついて行った。
 アークはスイカを軽く掲げ、

「じゃあ俺は、このスイカを冷やしに行こう」
「お供します。……それは木に生るものですか?」
「蔓を伸ばして、地面の上に生るんだよ」
「蔓?」

 スイカに興味津々のシャンカラと共に、龍や鳥達の邪魔にならぬよう上流へ向かった。



 小川を前にしたレナードは、

「いざ!」
「ん? 何す――」

 ダルマが問うより先に、靴を脱ぎ白い爪先を流れに浸した。
 途端、骨まで沁みるような冷たさに襲われる。

「っ冷たーーッ!!」

 跳び上がり、大急ぎで足を引っ込める。そんなレナードを、ダルマは無遠慮に笑い飛ばした。

「雪解け水だッつったろ?」
「ううー。せやったら、足つける前に教えてくれたってぇ」
「まさか足突っ込むとは思わなかったからよォ」

 詫び代わりに、ダルマは近くで水浴び中だった飛龍を呼び寄せる。

「ほれ、触ってみな」
「え、ええんやろか」

 レナードは少し緊張気味に、半身を川に浸したままの飛龍へ近づく。大きい。飛龍は金色の瞳でじっと見つめてくる。レナードも月長石の瞳で見つめ返し、そっと頭を撫でてみた。濡れた鱗の感触がひんやりと心地良い。飛龍も気持ちが良いのか、うっとりと目を閉じた。

「凛々しいけど可愛いんやねぇ」

 それから龍の全身を見回し、背が濡れていない事に気付く。

「背中は濡れるの嫌なんやろか?」
「いや。この辺りは浅ぇから、転がりでもしなきゃ背まで濡らせねェのさ」

 ダルマは飛龍の前脚を指す。翼と一体化している前脚では、自分で背に水をかけることはできない。納得したレナードは気合いを入れると、屈んで小川に両手を差し入れた。

「??っ!」
「おい、だから何やって、」

 一瞬呆れ顔をしたダルマだったが、次にレナードがとった行動に目を瞠った。
 レナードは両手で水を掬うと、飛龍の背へかけてやったのだ。そしてまた水を掬い、かける。一通り濡らすと、今度は手で背を擦ってやる。

「痒い所はあるやろかー? ……あ、ここやね。自分じゃ届かへんもんねぇ」

 手を痛々しく真っ赤にしたレナードは、それでも楽し気に微笑んでいて。ダルマは肩を竦めると、手近な岩に腰かけその様子を眺めた。

「ったく。とんだお人好しがいたモンだぜ」

 その唇に笑みを浮かべながら。



「……こんなに大きいのに水に浮くなんて」

 一方のアーク達。
 水から浮き上がってしまうスイカは、アークによってきちんと石で固定され、まんべんなく冷やされていた。シャンカラはそれを何とも不思議そうに眺め続ける。

「スイカがそんなに珍しいと思わなかったよ」

 飽く事なくスイカを見つめ続ける彼に、アークは苦笑した。隊長と言うより好奇心旺盛な子供のようだ。それからふと辺りを見渡す。そう離れていなかったはずなのに、いつの間にか目の届く範囲にレナード達がいない。

「もうすっかり冷えたと思うけど……レナード達はまだかな? 迷子になっていないといいけど……」
「ダルマさんを呼んでみますよ」

 迷子癖のある友人を気に掛けるアークの横で、シャンカラは指を咥えると高く鳴らした。澄んだ空気の中では、青年の低い声より高い指笛の方が遠くに届く。
 そうしてスイカを水から上げ、用意して来た木製の盆に乗せた頃、一頭の飛龍がこちらへ向け滑空して来た。その背にはレナード達の姿が。

「戻ったでー!」
「レナード! どこまで行ってたんだい?」

 まさか飛龍に乗ってくるとは思っていなかったアーク、驚いてレナードを仰ぐ。レナードは飛龍の背から飛び降りると、照れたように頬をぽりぽり。

「へへー。ちょっと下流までお散歩を、」
「悪ぃ、レナードの靴が流されちまってよォ」
「……それは長い散歩になったね」
「えへへ……」
「…………」


 ともあれ、スイカである。


「じゃあ切るよ」

 言って、アークは小太刀をすらりと抜き放つ。透明で美しい刃に一瞬見惚れた後、シャンカラはハッとなってアークの腕を掴んだ。

「そ、それは実戦刀では?」
「歪虚斬った刀じゃねぇよな!?」

 食えなくなっちまうと、急いでスイカを抱え込んだのはダルマだ。アークはくすりと笑みを零す。

「この刀は実戦で使ったことはないから、大丈夫」

 その言葉にホッとしたダルマは、盆の上にスイカを戻した。
 ――と。
 一瞬のうちにアークの気が張り詰める。手にした美しい小太刀が閃いた次の瞬間、

「……おおー!」

 三人は息を飲む。
 刃が雷光の如く奔ったかと思うと、球体だったスイカは均等に切り分けられ、盆の上に並んでいたのだ。

「見事だ!」
「これが東方由来の剣術ですね、素晴らしい!」
「いや、スイカを切っただけだから……」

 あまり褒められると面映ゆい。アークはささっと刃を拭い鞘に納めた。
 四人は腰を下ろすとスイカを手にし、

「いただきまーすっ」

 揃ってかぶりついた。初めて味わう甘さに、シャンカラの目が輝く。

「……美味しい!」
「気に入ってもらえて良かったよ」
「程よく冷えとるねぇ」

 レナードもしゃくしゃくと小気味の良い音をたて齧りつく。

「ダルマさんはどう? 口に合うと良いんだけ、ど、」

 が。振り向いた三人が見たのは、何とも言えない顔でぼりぼりと咀嚼しているダルマだった。

「存外旨ェ、ンだが……たまに固ぇな?」
「それ種やで?」
「ほらこの黒い粒、これは噛まずに吐き出すんだよ」
「先に言えっ」

 粉々にした種を慌てて吐き出すダルマに、三人は堪らず吹き出した。


 銀世界で味わう真夏の果実。涼しい風と小川のせせらぎ。そして、共に盆を囲む友人の笑顔。
 龍園そばの小川からは、陽が傾くまで賑やかな声が響き続けていた。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6613/レナード=クーク/男性/17歳/青星紋の共闘者】
【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17歳/炎を断つ黒刃】
ゲストNPC
【kz0226/シャンカラ/男性/25歳/龍騎士隊隊長】
【ダルマ/男性/36歳/年長龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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何かと龍園に尽力頂いているおふたりの、龍園で過ごす夏のひととき、お届けします。
スイカへの反応は予想外でしたでしょうか? 北方育ちの龍騎士達は、恐らくスイカ初見だろうということで、あのような描写になりました。
シャンカラばかりかダルマまでお誘い頂きありがとうございました。本人も喜んでいることと思います。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
 
 
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