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クリエイター名  深海残月
突き放し系客観描写、闇色シリアス系(暫定サンプル)

 人々の歩く姿が未だある。
 喧騒がまだ残る。
 旅装の者が立ち寄る小さな集落。
 そこに至る道。
 自分の踏み締める大地――足許を改めて気にする事もせず、旅人がひとりまた、その位置を、歩き過ぎる。
 少し、天気が崩れそうだ。
 こんな場所でそう思えば、誰でも早足になるのが道理の事で。

 …そんな中。
 歩き過ぎるのを見送った、そこ。

 地面が僅か、波打った。
 そうは言っても、地震いとは違う。
 母なる大地の、ごく一部。
 盤石な筈のその地表に、何故か微かな漣の波紋が浮かぶ。
 円形のその源。
 中心。
 …音も無く、ぬう、と浮き出た泥塗れの『何か』。

 まるで水面に見立てたように。
 泥を引き摺り滴らせ。
 浮き出たそれは。
 人の頭の――上半分にしか見えず。
 辛うじて顔が判別できた。
 目元がやっと見えるくらいの高さで、止まっている。
 地上の様子を、じっくりと窺い、睥睨するように。

 少しして。
 再び、音も無く沈み込む。

 ――…それで、これから。
 何が起きるのかを知る者は、その場に――その集落には、誰も居なかった。
 …否、それが明らかになる時には。
 顕れた『その者』以外にその場で生きている者自体が――誰も、居なかった。



 建物も家畜も人も。
 満足な形は残っていなかった。
 炎に舐められ、壊し尽くされ。
 炭に染められ異臭が漂う。

 不運と呼ぶにも生易し過ぎる。
 小さな集落の中、現れたのは――ふと佇んでいたのは袴姿の和装。
 旅慣れた者としては不自然、だが属すべき界が異なる者が突如この場に招かれてしまった、それならば不自然ではないだろう姿。それならばむしろこの程度、よくある差違と言える。
 そう、この袴姿の若者、異界人である事はすぐに見て取れた。
 服装や髪型、持ち物――それら外見的にはそれ以上は、何も際立って目立つものがあるようには見えなかった。

 けれど。
 それとしても――その黒血の如き微妙に移ろう瞳の色が。
 何でもない外見のその身が纏う、背筋を凍らせるような何処か異様な気配が。
 底知れない、尋常でない何かを秘めて見え。
 何もわからずとも、見ただけで。
 理由は何かと考える余地も無くただひたすら恐ろしくなるような。
 …それは、異界人が抜き身の日本刀――と呼ぶべき、ひとたび閃けばいつでも凶器となる得物をぶら下げていたからかもしれない。
 否。
 それだけでは、なくて。
 もっと違う、何か。

 この、『彼』は。
 握り持つ刀を振るうでも無くただ、佇んでいる。
 話し掛けると、その声に気付いたかぎこちなく小首を傾げた。
 それ以上の反応はない。
 声も返らない。
 言葉を発する事が出来ないのだろうか?
 そう思われる。
 手振り身振りを絡め、その異界人に何か伝えようとする。

 …何事も無く済んだのは、そこまで。

 その異界人からの、返答は。



 刀はその手に握られていても。
 最早その身は武士にはあらず。

 動く姿を見た者は居なかっただろう。
 …その身ごなしを追えるような者は、そこに居なかった。
 身体どころか。
 目でさえも。
 …ただ、その姿を目で追う事さえ。
 ましてや、その異界人の突然の凶行を、制し止める事など。
 誰一人。
 出来なかった。

 若者の纏う鬼気は荒れ狂う炎。
 それは躍動する豊穣の大地――その証が示す色。
 若しくは。
 ――…生きとし生けるものが還る最期の形が持ち得る色彩。

 どちらと取るのが正しかったか。

 ただ、その彩りが破壊と殺戮に舞い狂う。
 その結果。
 何が、起きたか。

 ――…煉獄の炎が数多の恵みを舐め取った。

 いつから降り出していたのか、叩き付ける雨だけがその『集落であった場所』を冷却、慰撫している。
 足りない、ながらも。

 数多の瓦礫と屍に囲まれる中で。
 ただ、立ち尽くす人影ひとつ。

 棒切れのような足。
 力無く両脇に下げられている両手。
 握り持たれているその一振りの刀すら、今にも手の中から滑り落ちそうな。
 いや、それどころか――その刀すら、雨に打たれ、そのまま何故か陽炎のように半ば消え掛けており。
 元から刀など持たなかったとでも、言うように。

 元の色など忘れ去られ、いつの間にか全身泥と黒血に塗れたその姿。
 血の朱を浴びた姿は、既に剣鬼を思わせた。
 今までの動きを見ていれば――その所業を考えれば嘘のように、剣鬼はその場に静かに留まる。

 水を打つような静寂が訪れる。
 微かに腕が動く。
 刀を握るその手。
 …その動きで、佇む姿が人型であった事が初めて思い出される。

 ぎこちなく動くその腕、黒血に濡れそぼった袖口からは鐡の鎖が垂れている。
 その鎖、刃とぶつかり微かな異音を耳に齎す。
 導かれるように目線の位置が移動する。
 音の位置を確かめる。
 ふ、と瞳の色が揺らめいた。
 ほんの僅か、感情の起伏を思わせる揺らめき。
 それもすぐに消え、舐めるように血脂塗れた刀身を見てから、そのまま仰のき。

 呵呵と哄笑。
 …狂気半ばのその声は、次第に嗤い声とは聞き取れなくなり。

 喉も涸れ裂けよとばかりに上げ続けられる音声。
 ただ、血刀をぶら提げて。

 …仰のいたそのまま。
 黒血の如き虚ろの瞳が空を見上げる。
 茫洋と。
 焦点など疾うに忘れた。
 ただ、黒雲が漠然と視界に映る。
 意味などない。
 ただ全てが見えればそれで事も無し。

 まだ、嗤う――嗤う?

 違った。
 今は、もう、その声は。
 …その見た場は並としか思えぬ人型・大きさの体躯からこれ程の声が出るものか。
 そう思わせる程の――凄まじき音声の。

 獣の如き咆哮が。
 若しくは――慟哭が。

 叩き付けられる雨の中、冷ややかな闇に見下ろされ、ただ、響き、轟く。

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■初出:
 OMCタイアップゲーム『聖獣界ソーン』内、当方『冒険紀行(ゲーム対応個室)』展開中シリーズ『炎舞ノ抄』の序幕サンプル三本の内一本。

 →タイトル【『炎舞ノ抄』序幕・堕 地獄絵図 〜 狂い舞う獄炎の】

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