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根本透子 |
●クラッシュ
クラッシュ 睡魔と云うのは敵に回すと厄介極まり無い。どれだけ運転に集中しても意識が途切れる。車の通りが少ない単調な道が私の意識を眠りの世界に誘おうとする。 ステアリングを握る手が微かにぶれる。仕事の付き合いとは云え酒を強かに飲むと云う暴挙をすれば、眠気以上に意識が途切れるのは自明の理だが、如何しても今日帰らなければ成らない。娘の誕生日プレゼントが助手席でカタカタと揺れる。カーステレオの時計は二十三時を越えている。今年で五歳を迎える娘は、親馬鹿だと思われても仕方が無いが、可愛くて仕方が無い。 都心から少し離れた場所とは云え一戸建ての家を建て、仕事も生活も満足している。私はアクセルを踏み込み家路に急ぐ。眠気等は車内の空気を入れ替えれば良い。スイッチを操作し窓を開ける。春とは云え未だ夜風は肌寒い。身体が微かに身震いして覚醒して行く。時折視界が霞むのは酒の所為だが、この程度は日常茶飯事の事で気にする事は無い。今迄も飲酒で事故を起した事等が無いのだ。私に限ってヘマをする等有り得ない。気を付けてさえいれば良い。 音楽のヴォリュームを弄り音を大きくする。家迄は後三十分程度だ。私はアクセルを踏み込みスピードを乗せ夜の街を駆け抜ける。ご機嫌な気分だ。夜風を受け血が騒ぐのに任せて走っていると、携帯電話が着信を響かせる。ディスプレイには妻の名前が踊っているが、如何せ小言に決まっている。携帯を助手席に放り出し車を走らせる。もう少しで家に着く。妻の小言はその時に聞けば良い。 遠くから救急車の音が良く響く。深夜とも成れば些細な音でも良く通る物だ。 時折意識が途切れる。ビールを大ジョッキで飲み、日本酒等色々と飲んだからだろうが流石に視界がクラクラする。気を引き締めて運転しないと危ない。
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