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かっこいい挨拶文・社長の言葉


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CLOSE - しまだ
●サンプル/一人称

【一人称】
 冷凍肉まんとあんまんを一つずつ容器に入れてレンジに投入しようとしていたら、「僕、半分でいいよ。半分こしよう」とソファに倒れていた影に言われた。あんまり食べないくせに背が大きくなるのは、よく寝てるせいだろうか。授業中に堂々と机に伏している彼の姿を思い浮かべて、『寝る子は育つ』が真実である可能性を垣間見る。
「やだー」って素直に返したら、「なんだとー」と抗議の声。でも無視。二人で半分こするのも良いけれど、でもしょうこは今日は肉まんを食べたい気分なのだ。光樹が食べたいのはどうせあんまんだし。
 光樹の考えている事は分かりやすい。悪く言えば単純で、良く言うとええっと、ふ、不純じゃない? しょうこは馬鹿なのでよく分かんないけれど、とにかく光樹と一緒にいるのは楽で良かった。別にそれだけの理由で付き合ってるわけじゃないけれど、同じ空間にいてそれぞれが勝手な事をしてようがあんまり気にならないのは良い事だと思う。勝手な事と言っても光樹はたいてい寝てるか寝てるか寝てるかしかしてないんだけれど。
 椅子に座って携帯をいじりながら中華まんズがチンされるのを待ってたら、「肉まんで祝うの?」と起き上がりもせずに光樹が訊いてきた。祝うって、何をだろう。
「しょうこの誕生日?」
「しょうこちゃんの誕生日五月だろ」

CLOSE - ひだりの
●猟奇風

青年は少年に連れられ、古い石畳の通りに遣ってきた。
丁度時刻は夕方で、白い石畳と家々の壁は赤く染まっている。


「ここが赤のクレイマン通り。」
「へえ、夕日がきれいだなあ。良い所じゃあないか。」
「夕方はね。」

CLOSE - shura
●月への回帰?T:一人称による表現

月への回帰?T 一人称による表現

 中天の月は夜目の利く僕には眩しいくらいに、闇に沈んだ人気のない街を駆ける僕の足元を煌々と照らしている。僕はそのあまりの明るさに何故か息がつまり、ともすれば立ちすくんでしまいそうになるのを必死にこらえながら、ただひたすら夜道を一人走っていた。石畳を蹴る音がやけに耳につき、他の音が何も聴こえてこないことに焦りを覚える。まだ僕の身体に”実体”がなく、しかし四本の足で檻の中を歩き回ってはフィルター越しにあの月を見上げていた頃は、こんなもどかしさを感じたことなど一度もなかった。
 「それはお前がこの世界の”一部”に組み込まれたからだ。今までのお前は言わば、この世界にとって”部外者”だったからな。お前はこの実体のある世界ではない別の世界に生まれ、一度死に、そして”ここ”に新たに生まれたことで初めてこの世界の一部になったのさ。特異な存在ではあるがな。」
 そう言った人間を探して僕は夜の街を駆け回っているが、未だその姿を、僕は見つけられずにいる。今の僕は、月の光にあたると銀色に輝く灰色の毛皮ではなく、太陽の下で金色にも見える明るい色の髪を持ち、鋭く大きな牙の代わりに心細く思えるくらい小さな犬歯と、地面に真っ直ぐに立つ尾のない身体で、”人”としてこの世界に生きており、昔のような鋭い嗅覚や聴力はすっかり失ってしまった。
 だから僕はこれほど不安なのか、それとも、あの真っ黒の空に浮かぶ鏡のような月が、不甲斐ない今の姿を映しては僕にいやというほど見せ付け、不安にさせるのか――。
 そう考えたものの、僕はすぐに自らその推測を打ち消した。

●月への回帰?U:三人称による表現

月への回帰?U 三人称による表現

 爆音を伴った一瞬の強い風の中でも、その男は着物をはためかせ、真っ直ぐに立っていた。夜の闇より黒い髪は逆巻き、くわえた煙管から出る紫煙は糸をひくように夜空に向かって長く長く伸びていたが、男はただ目を細め、身じろぎもせずにそこに佇んでいる。まるでこの世に怯えるべき物などないとでもいうように彼は、目の前の”現象”を揺るぎない瞳でじっと見守った。
 ”それ”は創生神の鍋からすくい上げて宙に落としたような、混沌とした一つの塊であり、絶えず姿を変えては光ったり音をたてたり、風を吹いたりしている。
 「お前は逃げ出したいのか、この街から?」
 ”それ”から強く吹きつける風にかき消されそうな――だが、落ち着いた揺らぎのない声で男が”それ”に向かって言う。
 「風ならば何処へでも行けると思ったのか。だが、風は壁に遮られる。街に吹く風は淀む――こんなごちゃごちゃとした所ではな。また、風は凪ぐこともある。そしてまた、強い風は人をはねつけ、時に傷つける。」

CLOSE - べるがー
●ある恋人の一日

・ギャグコメディ調(重くない恋愛風味)

「久しぶりに一緒に出掛けようって‥‥ここ?」
 女が、男に尋ねる。
「うんそう、ここ♪」
 男が女に答えた。目は既に女に向けられてはいない。
「ふうーん‥‥」

●閉じ込められた王女と閉じ込めた騎士

・シリアス(微量ダーク恋愛風味)

 ──此処に閉じ込められたのはいつの事だったろう?

 既にあやふやになりつつある記憶に自分のどこかが綻び始めてるのを感じる。
 ただ呆けたように窓から見える空を眺めていた私の耳に、カツカツと迷いなく近づいてくる足音。
 この部屋の外は冷たい硬質の廊下に繋がっているのだろうか? 私はそれを知っていただろうか?

CLOSE - 待雪天音
●Sample-1---イントロダクション




 ちりぢりの雲間からは、丁度夕日が沈んでいく所だった。
 もうすぐ、その闇には仄白い月が浮かび上がるのだろう。
 キッチンの窓辺に椅子を引っ張ってきた男が、短い黄昏時を憂うかのように頬杖を付いた。窓枠の狭い隙間に肘を付いて、ガラス玉のような瞳がマゼンタに染まる空を見つめる。
 燕尾服に白手袋の見てくれとは裏腹な、何とも紳士らしからぬ様相で、だ。

●山姫




 それは、小さな身体だった。木の根本で、横たわるようにして目を閉じている野ウサギの身体。
 野生のウサギにしては柔らかい毛並み。少年はそれを腕に抱き込んだ瞬間、吸い込んだ息を止めるように短い悲鳴を上げた。
 呆然と野ウサギを見下ろしていた瞳が、突如として焦点を結んだ。じわりと広がる、背筋を這うようないやな感覚。寒くもないのに、少年の身体はガタガタと酷く震え出す。
 抱き上げた掌に伝わるのは、酷く冷たい無機質な温度と、硬直した肉の感触だ。

CLOSE - 本田光一
●サンプル1

「クリスマス特別企画だって?」
 俺、こと本田光一は薫を見て瞬き6回。
 鈴木薫。自称、セーラー服美少女大博士。
 ‥‥‥百歩譲って美少女なのはまぁそのなんだ、認めよう。
 でも、大博士というのは『狂的科学者』という注釈が付いていないと間違ってるって密かに思う今日この頃。
 でも、誰にも言えない、知られちゃ(特に目の前のこの人物には)いけないので心の中で言うだけに止めておく。
 ‥‥‥いや、ホントは思うだけでも怖いんだけどね、彼女の前では。

CLOSE - 山崎あすな
●めろめろメトロ

 毎朝の日課。
 それは、通勤電車で――名前も知らない青年の枕になること。


 今日も市営地下鉄の終着駅であるここは、大変な賑わいを見せている。ため息が漏れてしまうほどの人ごみも、社会人三年目となればなれたものだ。
 俺は毎朝同じ車両の、同じドアの前で電車を待ち、同じ場所に座り込む。見渡す面子も毎朝同じようなものだ。
 しかしこの春から、変わったことが一つだけあった。

CLOSE - JOEmasa
●額縁の向こうの彼女

『額縁の向こうの彼女』

鰯雲の狭間から夕暮れ前の光が漏れだし、濃い青が顔を覗かせていた。
僕は雑多な商店街からそれを見上げ、静かに足を止めた。
甲高い声を上げながら白く鋭い鳥が一羽、遠くの山へ飛び去っていった。

何か用事があって出かけた気がするのに、それを思い出すこともできない。

●仕合

『仕合』

夜、通りには人一人いない。
いや目が慣れてくれば、二人の男がそこに見える。
身動きしない二人が、手に刃を持っている。

刀を構えるとき、人は一つの星を成す。

●二人の雨

『二人の雨』

笠を目深に被った男は、降りしきる雨の中でじっと突っ立っていた。
薄く雨音が続くだけで、辺りは静寂と言える。
使われることのなかった大道芸の道具が、一層音を消して見えた。

「この天気、長いみたいだね」

●愛せない身体

『愛せない身体』

久しぶりに会った彼女は、痩せこけた頬で弱々しく笑みを作っていた。
僕はそれに力なく手を挙げることしかできず、気付かれないように少しだけうつむいた。
約束した喫茶店は大して混み合っておらず、僕達は通りに面した小さな席に着いた。
ガラスの向こうで行き交う人々を眺めていると店員が来て、まだ注文が決まっていないことを聞いて不機嫌そうに去っていった。


●雲間へ

『雲間へ』

視界は白と灰に満ち、溢れかえる機器の作動音をしんしんと降る雪が吸っていた。
荒廃する環境と枯渇する資源に刃向かうように技術は進歩し、今はもう人がこの冷たい空気を感じることも、機械が駆動を難とすることもない。
そこまでして殺し合いがしたいかね、頭の中に浮かぶ自嘲を押し殺すたびに、この戦闘服で遮られたはずの薄ら寒さを、俺は感じていた。

ガンナー席に戻り計器類を確かめていると、慌ただしい船の甲板を男が一人歩いてきた。

CLOSE - 凪鮫司
●雨女と先輩

雨女と先輩


天気予報は晴れだったのに。

「うおおすげえ! 吹き上がるマンホール! 坂を流れる濁流! 間髪入れず響く雷鳴! これこそ人生最後の秘境! 暴風雨ゥー!」
「笑いごとっちゃないですよお! なんで! さっきまでぜんぜん晴れてたのに! ありえん! お菓子も花火もぐちゃぐちゃじゃない!」

CLOSE - 大河渡
●BABY SMILE(ラブコメ)

■題名「BABY SMILE」 ■400字詰め原稿用紙30枚

■本文
 ――お母さん。あたし今、とっても幸せだよ――

真冬にしては、暖かな早朝。
 前日までに降り積もった雪が水となって流れ出ている。

●夕陽といじっぱり(ラブコメ)

■題名「夕陽といじっぱり〜大正アンティーク浪漫」 ■400字詰め原稿用紙32枚

■本文
 浩平【こうへい】と椿【つばき】が出会ったのは、大正七年の春のことだった。
 その日、浩平は祖父の秋月慎之介【あきづき・しんのすけ】と銀座の競市に訪れていた。
「備前。伊万里。師宣の浮世絵。雪舟の水墨画。今回も良い品がそろってんじゃないの」
 目の前には高級アンティークが目の前に山となって並んでいる。その山々を祖父は六十を過ぎた老人とは思えないほど目を輝かせて見ている。

CLOSE - 真神 ルナ
●変わらないもの


・短編小説「変わらないもの」


時は流れ
全てが少しずつ変わり行く
変わることよりも、変わらないことの方が大変で

●グレイ・ガーディア


・サイト連載小説グレイガーディア


太陽がやっと顔を出し始めたころ、一人の女が崖の上から何かを眺めていた。
辺りにはうっすらと霧がかかり、数メートル先にあるものですらはっきりとその姿を捉えることはできない。
かすかに見える影を目で追いながら、女は舌打ちする。

CLOSE - タマミヤ
●文章サンプル(オリジナルノベル・乙女ゲーム風)

<女性向けシミュレーションゲーム風文章サンプル>


 自然と唇の端から溜め息が漏れた。
 整理がついた、といえば嘘になる。けれど、伝えたいことは全て伝えたつもりだ。――牧瀬さんが好きだってことと。それ以上、私に口を挟む権利なんてない。彼の夢は彼のものだ。嫌だ、行かないで、なんて馬鹿みたいに駄々を捏ねたって、それではただの押し付けにしかならない。
 もう諦めよう。好きってことだけでも伝えられたんだから……。
 オリーブの浮いたカクテルグラスを傾ける。水面は波打ち、店内の照明をきらきらと反射した。これを飲み干したら、今日は真っ直ぐ家に帰ろう。そして泥のように眠ってしまおう。グラスの脚を指で摘み、口元へと運ぶ。

●文章サンプル(オリジナルノベル・純愛風)

<純愛風文章サンプル>


 彼女はまだ長い髪をしていた。


 最初は他人の空似かと思った。だが他人というにはあまりにも似すぎていた。

CLOSE - あるてみす
●竜翁

 枯れ葉の堆積した斜面を、体重を掛けて踏み締めていく。
 盛り上がった木の根にスニーカーを引っ掛けて体を持ち上げると、かすかに滲んだ汗が冷たい風に拭われた。呼吸を整えてから振り返ると、広大な草原が一望出来た。眼下には青々とした木々が茂っており、山もまた豊かだった。草原を吹き渡る風の中には牧場の敷地の中を駆け回る馬の蹄の音や、高い空を巡る鳥の甲高い鳴き声が含まれていた。湿った土の匂いが混じった空気を肺に詰め込んでから、カナコはショートカットの髪の襟足を払い、首筋の汗を拭った。
 カナコは振り返り、太い木々の奥に隠れた洞窟を見定めると、好き勝手に伸びている雑草を足で払いながら足を進めた。ツタの這う斜面にぽっかりと口を開けている洞窟に入ると、暖かな外気よりも湿っていて冷ややかな空気が肌を舐めた。入り口から差し込む日光以外には光源がないため、かなり暗かったが、慣れた場所なのでカナコは足元も見ずに歩いた。しばらく歩くと、洞窟の奥に岩盤ではない遮蔽物が現れた。それは、首が痛くなるほど見上げても見上げきれない扉だった。全長十メートル以上はあろうかという重厚な物体であり、雑多な木材や金属などを寄せ木細工のように組み合わせて造られたものだった。
 カナコはその扉を乱暴にノックしてから、背中で思い切り押したが、扉自体の凄まじい重量に負けて足が滑ってしまった。バスケットを落とさないように抱え直してから再度背中で扉を押してみるが、その努力も空しく、扉は一ミリも動かなかった。
「いい加減にしろよ…」
 カナコは小さく毒突いてから、目下の障害である扉を全力で押し開こうとすると、遙か頭上でドアノブがぎぎぃと捻られた。耳障りな騒音の後、厚さ二十センチはあろうかという分厚い金属板で出来た蝶番が動き、埃混じりの火花が飛び散った。
「いやあ、すまんすまん」

CLOSE - 法印堂沙亜羅
●サンプル1(ダークな時代伝奇)

その夜。
南の空が、赤く染まっていた。
鳴り響く半鐘の音。

「火元は芝だ」
「坊主と色子の尻に火ィついたってかい」


●サンプル2(ライブの1シーン)

 悲鳴に近い喜悦の叫びが、周囲を満たしていた。
 心臓の破裂しそうな重さと速さで叩きつけられる、ドラムの16BEAT。
 ドライアイスの薄い煙幕が、点滅を繰り返す原色のライトと宙を切り裂くレーザー光を際立たせる。
 前へ前へと何かを訴えるように詰めかけるオーディエンスは、ステージ前に設えられた鉄柵すら押しつぶしそうな勢いだ。
 ステージの中心にいるのは、切れ長の黒瞳に鉄色の長髪のヴォーカリスト。
 男にしては艶なメタリックなグレイに塗った唇で何か叫ぶたびに、オーディエンスの叫びが一際大きくなる。
 ヴォーカリストが、すっと手を上げた。人差し指を突き出して左右へと振る。

●サンプル3(平安ファンタジー)

 一つ一つざっと確かめつつ山を崩してゆくと、一番下からかなり大きめの美麗な箱が出てきた。
 長方形の箱の、長い方の一辺は、少年の背丈よりもずっとある。
 材質ははっきりしないが、透明感のある薄青色の石のようなもので作られている。
 奇童丸は、いぶかしんだ。
 ここにあったものの中で、これだけは見るからに価値のありそうなものだ。
 なのに何故、ここに置かれているのだろうか。
 灯りを置いて屈み、蓋へと手を伸ばす。滑らかでひんやりとした感触が、手に心地よい。

●サンプル4(お笑い時代劇)

 その姿が奥へと消えると、銭湯の正面の柳の木の陰で遊び人らしき男がいかにも小悪党じみた笑いを漏らし、いずこかへ走りだした。
 男は近所の蕎麦屋に駆け込むと、そこにたむろしていた十人ほどの男たちのもとへゆき、リーダー格とおぼしき者に耳打ちした。
 「よし、確かに入ったんだな」
 「間違いありやせん。へへ、約束の金を。おお、こりゃ、どうも。じゃ、あっしはこれで」
 知らせに来た男は金を受け取ると、そそくさと去っていった。
「よし、行くぜ、野郎ども」
 男たちがばらばらと立ち上がる。明らかに、やくざ者の集団であった。

CLOSE - 吟遊詩人ウィッチ
●フェノミナン

 アイスクリームが溶けおちる速度よりも早く歩くつもりで、蝉時雨が頭上を降り注ぐ勾配を上っていくと、まだ一度も入ったことのない店があった。なんだろうと物珍しさ半分、足を止めると、壁面に刻まれた木目模様が放つミルク色や、ニスのつややかでやわらかい光の粒が反射してきて、思わず目を細める。熱さと詰まった息のせいか、狭まった視界の向こうで、ガラス張りのショーウィンドウが水面のようにきらきらと輝いていて、水玉の帽子を被ったからくりの道化師がこんにちは、と慇懃にお辞儀するところだった。
 奥の方では古めかしいグランドファザーロックが置かれ、中の振り子は蒸し返るような夏の時間をゆっくりと刻んでいた。どこか古めかしい情緒に目を奪われてしまい、透明ガラスの向こうに氾がる時計たちをぼんやりと眺める。
 次第にショーウィンドウ越しにちくちくと歯車が刻む音がせめぎあい、それぞれの時計の針はお互いの呼吸に合わせるように同じリズム、同じ間隔で文字盤の時間を刻もうと音を立てる。そればかりではなく、振り子や仕掛けに連動した人形の動きなどが全て規則正しく動こうとする。そうやって見とれていると歯車の噛み合う音でいっぱいになり、刺すような夏の陽射しも手伝ってか、視界がミルク色のベールをかぶせたように滲み、軽い目眩に襲われる。
 息を整えてもう一度、ショーウィンドウを覗き込もうとするが、二重写しになった向こうで、熱い陽射しを受けたアスファルトを歩く、日傘を差した女性と、薄茶色の飼い犬が散歩する姿が浮かび上がり、舌を垂らしたブルドッグが、陽炎の沸き立つ透明なブルーの空に湿った鼻を持ち上げるものだから、そのしわくちゃな、いかにも気怠い表情に目が誘われてしまい、同じ空を振り返ると、入道雲は熱にやられてしまったバターみたいにじっとしていて動かず、ただ宙で寝そべったまま都会の街並みを見下ろしている。
 遠くでは銀色を反射させるビル群がそそり立ち、その隙間を行き交うトラックのもうもうと吐き出される排気や、夏休みに入っても働き続けるホワイトシャツの人達が放つ、つんとした臭いが下町の方まで漂ってくる気がして、神無城・衣緒(かんなぎ・いお)は気後れする。まだ始まったばかりなのに夏休みがもう終わってしまう、そんな訳の分からない錯覚が、急に襲ってくる。
 深々と溜息を吐く。
 しばらく立ち尽くし、ショーウィンドウに頬をべったりと押し付けながら、アイスバーの棒きれを噛んでいると「よ、ネズミ君」と聞き慣れた声がしてふいに両肩を掴まれる。「あるいはリス君」驚く暇もなく髪の毛をくしゃくしゃにされてしまう。

●退廃した世界より伝達

 ベッド際のテレビに砂嵐が映っている。薄暗いグレーと白の、白光が、ときおりふわりとざらついた無機質な点描を作り、薄い陰影のある透明の泡を孕んだ粒状の、岸に打ち上げられかけたさざ波のようにうねり、重く閉ざされたカーテンが蠕動する蛞蝓のように形を変えていく。ベッドの上には一人の男が、頭を抱えるようにして、スチールのマガジンラックがある横のベッドに腰掛けている。マガジンラックには、音楽雑誌、経済誌、ファッション誌などが並んでいるが、読みかけの雑誌などはいっさいなく、どの家具もまるで彼と彼の存在と同位置、あるいは彼自身の影と同化するように、頭を擡げ、固く口を閉ざしたまま蹲っている。たとえばビンテージ物のジャンパーやアメリカンフットボールのヘルメット、ゴリラを象った置物、並べられた葉巻、空気清浄機、一眼レフのデジタルカメラ、OA機器、こういった物の数々はある一定の経済力と職業的な特色を兼ね備え、一つの物語を語る上では些末な、あるいは彼の内面を物語る事物として配置された一種の予備的なファクタであるかもしれない。けれども、こういったファクタのひとつひとつは彼との関連性を全く持たないかもしれない。そういった対をなす無限の想像力は常に、僕たちの傍らで、鎧を着た兵士のように槍を携え、彼という人柄を一切の想像力から排除しようと、待ち構える。想像力と事物の解離は、彼という人間そのものを語ることさえ許さないある種の深いプロテクトでもあり、ブラックボックスでもあり得る。
 彼は僕なのか、あるいは他の誰なのか、まだ分からない。けれども、ただ一つ言えること、すなわち彼は今、社会から断絶されている。それはあらゆる意味で、孤独な人間のひとりとして堅牢な城の、薄暗い地下牢に閉じこめられている囚人と同じかもしれない。
 彼はいま大きく息を吸い、それから腕時計を見る。あるいは僕も、そうして、現在、おかれている立場を確認するために時間を確認するだろうか。そう、今は午前3時48分だ。寝るには遅すぎるし、かといって、朝にはまだ至っていない。夜という原始的な獣は、来るべき朝の理性へとゆるやかに覚醒していくのだ。その隘路に立たされた彼は、今や足首に括り付けられた深い闇の鎖を引きちぎり、来るべき時間へ向かって、つま先立ちをして、短距離走のランナーのように、刻一刻と迫ってくる時間を内なる鼓動と共鳴させ、今か今かと待ち構え、走ろうとする。ゆっくりと身を前屈みにして、立ち上がり、鍵も財布も取らずに玄関へと向かう。立ち去る瞬間、彼は拳を握りしめ、ノックするような動作をする。それが彼の何らかの意志を表すものなのか、今はまだ知る必要がない。彼の足音とテレビの砂嵐だけが、異質な世界に取り残された残滓のようにそこに立ち止まり、誰もいなくなった部屋の中を映し出している。
 3時50分。電話の電子ベルと男の残していった携帯電話が同時に鳴る。サイドテーブルの卓上に置かれた電話機が留守番録音に切り替わる。録音に切り替わった瞬間、遮断機の轟音と風の空気がスピーカーの電子音に無理矢理変換され、けたたましい物音に変わる。相手側はしばらく何も話す気配はない。あるいは遮断機の音が消えるまで待っていたのかも知れない。45秒ほど立ったところで男の声で「聞こえているか」と、そこにいるべき人間に問いかける。しかし、そこにいるのは砂嵐の音と、時計が音を刻む音だけだ。ひどく興奮したような、荒い鼻息が無機質なデジタルテープに記録されていく。聞こえているか、聞こえているか、と二度繰り返し、政治的大量殺戮を犯した死刑囚が、息絶え絶えになりながらも、その正当性を主張し、歴史的権威を自らのもとへと還元する儀式が、今ここで阻止され、あるいは、昇華されようとでもいうかのように。聞こえているか、そう何度も、全世界の人間に向けて、電話からの主は一つの終わりを宣告する。
「君は何ともつかない物事から逃げだした。これは明白な事実である。私はいつだって君を見ている。君の傍にいる。逃げるのか? 大いに逃げるがいい。君の家族のことも、知人のことも、よく通う書店の位置や君がどういった本を読むのか、ありとあらゆる情報は私たちの手の内にある。私は今ここで君を見ているぞ」
 そこでテープは終わる。砂嵐が再び我が領土を取り戻し、静寂の王国が戻ってくる。
 

CLOSE - 麻鞍祐
●フタリジカン

 大すきって、この心に持っていることは簡単で。
 でも、それを言葉にするのは、とても難しいんです。
「あ、あの、私、す、す、す・・・」
 そこから先、言葉が全くと言って良いほど進みません!!
 目の前には、大すきな彼が、私の言葉を待ってくれているというのに、何だか、自分がふがいなさすぎて、泣けてきそう。
 けど、そんな私の性格をよくわかっている翔くんは、しかたねぇな、って笑ってくれた。
「お前さぁ、もうちっと、思ったことを素直に出す練習、した方がいいと思うぞ。そりゃ、何でもかんでも、言えば良いってもんでもないけどさ」

●アイノコトバ

 例えば、言葉で人の心を簡単に左右できるものだとしたら、人殺しなんて簡単に出来ると思う。
 「嫌い」の一言でも深く心をえぐられる人って、きっと少なくないと思うから。
 じゃあ、逆だったら?
 言葉で人を救えるのだとしたら、そんな素敵なことはないよね?
 そんな話を聞いたら、君は、笑いますか?



CLOSE - 黄昏みとん
●Sample1

Sample(コミカル系)

 一ヵ月半もあった夏休みも、今日で終わりを告げようとしていた。
 毎年の事ながら、休み前に出された宿題は終わっていない。遊んで過ごしていたら、あっという間に最終日になってしまったのだ。
 そんなわけで今日は必死に部屋に篭って朝から宿題を片付けているわけなのだが、どうにも集中出来なかった。
 出されているプリント自体は難しいわけではない。一日もかからずに終わらせる事が出来る量だろう。
 俺の集中を乱すものは他に存在する。それは音。

●Sample2

Sample(ファンタジー系)

「はっ!」
 素早く攻撃射程内に入り、身の丈もあるような大剣を振り下ろす。だがその動きは完全に見切られ、すんでのところで空を切り裂き、勢いそのままに地面へ。衝突した瞬間、大地を揺るがす轟音を立て、地面に大きなクレーターを作った。
 予想以上の破壊力に驚く間もなく、軽く剣撃を避けただけの敵は地面から吹き上がった土や石の衝撃を全身で食らう。そして数十メートル後ろへと吹き飛ばされ、まるで体全体がゴムで出来ているかのように地面を大きく何度もバウンドして転がっていく。
 一撃で勝負ありだった。敵は完全に沈黙したようで、地面に倒れ伏せたままぴくりとも動かない。勝利の笑みを浮かべながら、リンは敵の下(もと)へと歩み寄る。敵は深いローブで顔を隠していたため、無謀にも命を狙って襲い掛かってきた相手の顔を見てやろうと思ったのだ。
「ふふん。あたしとこの神剣『ゼクシア』を甘く見ないことね」

CLOSE - 雨宮
●言葉の魔法

 ひぐらしが鳴く夏の夕方。夕方だろうと夏の暑さが容赦なく街を包み込む。
 キーンコーンカーンコーン。
 県内の高校では珍しい六階建ての学校からチャイムが鳴り響く。しかし今は夏休みのため生徒は誰もいない。一人を除いてだが。
 その生徒、纏井 紡(まとい つむぎ)は屋上にいた。老朽化したフェンスに囲まれた屋上は生活音から隔離された平静な世界といえる。端の木陰で読んでいた小説を胸の上に置き、ただぼーっと空を眺めている。何を考えるわけでもなく何を思うわけでもなくただ眺めているだけ。たが、その静かな時間にもいずれ邪魔が入る。
 キィという音と共に屋上の扉が開き、白いシャツに赤いスカートの少女が姿を現した。少女はそのまま高さ三メートルほどのフェンスに歩み寄り、下を見つめる。
 数分が経つ。
 そして、三度深呼吸をしたのちフェンスに足をかけ、よじ登ろうとする。

●悪夢の蜃気楼

 「はっ、はっ、はっ、はっ」
 海沿いの砂浜を上下黒いジャージ姿の青年が走っている。体を動かしている間だけは頭の中をカラッポに出来るから。
 現在の時刻は午前四時十二分。季節が夏であるため朝でもまだ肌寒い。辺りは朝焼けに包まれている、人が出歩いている気配はない。聞こえてくるのは波の音 と自分の呼吸音だけだった。しかし、青年の頭の中にはうるさいほど大量の声が駆け巡っている。声を振り払うように青年は砂浜をひた走る。どれだけ走っただ ろう。それすらも定かではない。今自分を襲うのは眠気と疲労、それと―――。
 青年が住んでいるアパートに着くと自分の家の前に大量の手紙が散乱していた。それを無視して扉を開ける。すると玄関にも大量の手紙が放置されており、中には血痕が混じったものもあった。それも無視してリビングに向かう。リビングには長い黒髪で白を基調にしたセーラー服姿の笑顔を浮かべる女子高生の写真が隙間なく壁に貼られていた。
 もちろん青年が貼ったものではない。それも無視する。
 青年は家電が点滅しているのに気づき留守番電話を聞く。
 ピー、という音の後すぐに音声が流れる

CLOSE - 風見
●キャラクターの書き込み例になります

 カウントダウンがとうの昔に始まっていたことに気付いたのは、ごく最近のことである。
 期待の新人だの有望の新鋭だの言われる年齢が遠ざかるにつれ、夢だの希望だのといったきらきらしいものは重い鈍色の緞帳に被われていった。高校生デビューなどというあおり文句への憧れは、いつの間にやら軽蔑や嫉妬に変わっていた。原稿の応募も事務的になり、不採用原稿の数は両手にあまったところで数えることをやめてしまった。
 努力を怠ったわけではなく、無為に日々を過ごしてきたわけでもない。なにごとにつけ不器用である自覚はあるから、寸暇を惜しんで努力してきたつもりだ。
 内科医が面倒くさげに繰っているカルテをぼんやりと眺めながら、高野美紀は右中指の腹をこすった。ペンを握るとき、ペン先をそこへ強く押しつけるようにするのは、幼いころからの癖である。おかげで美紀が付けペンを使うとペン先が歪んでインクが漏れだしてしまう。インクの黒は指紋にそってにじんで、まるであざのように指へ染みついていた。
 十七年ぶんのあざ。それが当たり前になってしまったのはいつだったろう。

●小説の断片(序章)のようなものも作成可能です

   序

 私は手ひどく彼を愛した。
 人間が人間たる機微を知らぬ彼を軽んじてのことではもちろんなかった。
 私の中の優しいかたまり――それは私の根源たる色とはまったく相反する、炎の一等熱いところによく似た色をしていた。
 ひどくねじくれて、だからこそまっすぐで偽りようのないそれは、温度のないように燃えさかりながら涼しげな見た目からは想像もつかない熱心さで私の全身を満たして支配した。
 弱いといえばこれほどに弱いものはなく、脆いといえばこれ以上に脆いものなど存在しないというのに、それはひねりつぶそうとする私の指から、まるで池に浮かぶひょうたんのようにぷかりぷかりと逃れ出ては色を強め、その全霊でもって私の目を眩く突いて焦がした。

CLOSE - 一 一
●サーカスの終幕

 世界が回る。
 私を軸にして回る。
 くるくると回る。
 回る、回る、くるくるくるくる、くるりくる。

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