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かっこいい挨拶文・社長の言葉




OPEN - 高原恵
●サンプル1

『月夜の闇』


 新興都市オルキア。約百二十年の歴史を持つルーロンス王国で、約二十年前に造られた都市。その郊外にその屋敷はあった。決して大きいとは言えない。だが、立派な作りの屋敷ではあった。ある神殿の高司祭はその屋敷をこう呼んだことがある――『花の館』と。


「お嬢様。どちらですか、シーラお嬢様」

OPEN - 県 裕樹
●白い吐息の向こうに

 ン……
 心地よい微睡の中から、引き摺り出されるこの瞬間。
 前は、これが嫌で嫌でたまらなかった。
「……よし、今日もアタシの勝ちだね」
 何と戦っているんだか、そんな勝利とやらに意味なんかあるのか……等と脳内で自分に対して苦笑いを向けながら、目覚まし時計がヒステリックな音を立てないように、その頭を軽く撫でてやる。
 カーテンを開くと、漸く白み始めた空が見える。小さく蕾を付け始めた梅の木が、柔らかな光を受けてキラキラと輝いている。
 未だ甘い誘惑を投げ掛けて来る布団を勢いよく退けると、遠慮と云うものを知らない冷えた空気が薄い寝間着を貫いて、一気に眠気を取り去って行く。

●心の鏡

 私はどうして、こんなところを飛んでいるんだろう……
 まるでミルクの中を泳いでいるかのような、ハッキリとしない意識。目は覚めているし、耳も聞こえる。勿論、視界も良好。だが、意識が……と言うより、気力が底を付きかけて、ふわふわと風に流されるままに、状況に身を任せて宙に浮いているのだ。
「幾ら弱種とはいえ、私だってヴァンパイア……人間ぐらい、簡単に御し切れると思っていたのに……」
 ひとえに吸血鬼と言っても、様々な種類がある。有名なところでは、蝙蝠の姿を借りて夜の地上を闊歩する、ドラキュラ伯を筆頭とする種族。彼らには日光に弱いという弱点があり、行動できる時間帯は夜間に限られるが、その身体能力は人間の比ではなく、逆に夜間であればほぼ無敵と言って良かった。ニンニクや十字架に弱いという弱点が伝えられているが、それはあくまで俗説であり、彼らに十字架を見せたところで怯みもしないし、ニンニクの臭いを嗅がせたところで何の効果も無い。
 その他、人型を持たない獣型、果ては昆虫型なども存在していたが、その何れもが、力関係では人間を凌駕していた。そう、人間は吸血鬼に敵わない……これはもはや常識であった。ところが……
「まさか、あんな小さな女の子にすら敵わないなんて……私って、一体なんなのかしら……」
 彼女達の一族も、確かにヴァンパイアの一種ではある。が、吸血『鬼』と名乗る事が憚られるほど、弱い種族だった。無論、その体力や腕力には個体差があり、単純な力量では人間を凌駕する者もいる。だが、肝心な吸血鬼としての能力は『蚊』に近く、殆ど無力と言って良いほど弱かった。無論彼らには、変身能力も備わっていない。

●リセットボタンは何処ですか

「な……何だ、コレ!?」
 いつもと同じ時刻、いつもと同じ場所。そして周りにはいつもと同じ顔ぶれの知人たち。
 だが、ひとつだけ違う事があった。そこに居た人たちは、皆その『違う事』の前で各々にリアクションしていた。
「あーあ、やっぱりかぁ」
 こうなる事を、以前から予想していましたと言わんばかりに肩を竦める者。
「もう、探しても無駄だな。家に行ってもモヌケの空だろうぜ」
 その責任を追及しようとするが、既にどうにもならないという事を悟る者。

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