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クリエイター名 |
福娘紅子 |
コメント |
普段は、SF系・ペーソスコメディ系・ハードボイルド系などを書いています。ざらっとした堅い手触りの文が得意。エピソードでキャラを立てていくタイプですが、情景描写に内面を重ねるような書き方も好きです。綺麗な小説とスラップスティック系は苦手かもしれません。皆様がフィクションの世界で浮遊するお手伝いが出来たらいいなと思っています。 |
サンプル |
近未来・シリアス・冒頭部分
無人のアスファルト。シュト=ハイウェイが十字架(クロス)の影を作っていた。まるで月が地球に何かの刻印を押したようだと少年は思った。 今夜の月は紅い。 少年は膝を立てて座り直した。擦り減ったジーンズは、コンクリートの冷たさも硬さもそのままで伝えた。シャッターにもたれ掛かると、軋んで、錆びたブランコの音がした。確かにここは遊園地に似ているかもしれない。 母親が、紅い月の夜を嫌っていたのを思い出す。だが、月が出ているだけマシってもんだ。 少年はワークシャツの胸ポケットからハーパーを取り出した。店を飛び出した時、レジの横に並べてあったので数枚の札と一緒に頂戴したものだった。まだ半分は残っている。壜に直接口をつけ、金色の液体を喉に流し込んだ。乾きを癒すのではなく、暖をとる為だった。
SF・シリアス・冒頭部分
男は部屋に足を踏み入れた。煌々と幾つもランプが灯る室内にいてもなお、少年は混沌という闇の中で、憔悴という名のソファに腰をおろしているように見えた。男に気づき、少年はかすかに肩を動かした。 「気分はどうだね?」 少年は男のまとう空気でさえ見たくないというように、ぷいと横を向いた。肩にかかりそうな長い髪がふわりと揺れ、まだ幼さの残る頬を隠す。柔らかな布が包む肩はまだ細く、若さを感じさせた。 ソファの両脇に立った兵士たちの敬礼に対し、男は肩にかかるマントをひるがえすと、黒い皮手袋の指を揃えて応えた。そして少年の前のソファに音をたてて座った。軍帽を目深に被ったままなので目の動きは見えない。足を組んだブーツの爪先が少年の膝に届きそうになって、少年は顔をしかめて深く座り直す。 「なぜ僕だけ軟禁なのですか。みんなは牢に入れられたそうじゃないですか」 横を向いたまま、少年が言った。質問というより非難の口調だった。率直そうな黒い瞳は、涙ぐんでいるようにさえ見えた。
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