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クリエイター名 |
羽鳥日陽子 |
コメント |
お初にお目にかかります、羽鳥日陽子(ハトリヒナコ)と申します。 読み終えた後に一欠けらでも、何かが残るといいなと思えるような、そんな文章を綴る事が目標です。 ほのぼのからシリアスまで、様々なジャンルに挑戦したいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。 |
サンプル |
サンプル1
竜王国リュインの城下町──その中央広場に立つ時計塔には、二つの鐘がある。 一つは、時刻の移り変わりを告げる鐘――毎日決まった時刻に鳴っているので、リュイン国内で一日を過ごせば否が応でも聞かされる羽目になる、いわば人々にとっては馴染みの音だ。 そしてもう一つは、時刻を告げるそれよりも高く細く遠くまで響き渡る音色。 国中に知らせるべき祝い事の折に人々の耳に届けられる──祝福の鐘だ。
すっきりと晴れ渡った空を淡く染め上げたレーナ・ティーラの子ども達が、一足早く地上へ祝福を贈っているようだった。地上を廻る風もどこか心を躍らせているようで、人々の頬を擽りながら笑みを引き出している。
夢路の涯てに遠くて近い、何時か何処かで紡がれた話
──その時、私は夢を見ていた。色鮮やかで懐かしく、どこか悲しくて寂しい、そんな夢を。
絵画をそのまま取り出したような美しい風景の中を、私は一人で歩いていた。まほろばの異郷──楽園というものが本当に存在するのなら、こういう所なのだろうと思えるような──そんな景色の中に私はいた。 風は心地よく、新しい朝のそれのような清々しささえ感じた。けれど夜明けと夕暮れを一気に混ぜて溶かしたような空は、ちょうど宵闇の衣に袖を通し始めた所だった。渡る雲は燃える火の色をしていて、その間を駆け抜けていく鳥は虹の七色に染まっていた。 辺りに根を下ろした木々に宿った実は熟れて甘い芳香をばら撒いていたし、その側に寄り添うように咲いていた白く可憐な花達は、まるで私を待っていたかのように微笑んでいた。 深い森の中だった。だが、そんな美しい世界でありながら、生き物の気配を全く感じることができなかった。私はどこかへ向かって歩いていたようだったが、どこへ向かっているのかも皆目見当がつかなかった。いつから歩いていたのかも、わからなかった。そして、不可思議なことに──そもそも歩いているという感覚がなかった。
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