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クリエイター名 |
斑鳩准 |
コメント |
こんにちは、斑鳩准という者です。現代物を中心に、自然な設定を意識した特殊能力物をよく書いています。情景描写は少ない方で、コメディは苦手なジャンルです。短編が中心になると思われますが、ご容赦下さいませ。ちなみにお任せの多い注文内容だと私が悶絶した挙句、納品が切羽詰ること請け合いですので注意してやって下さい。 |
サンプル |
深緋
531の番号を冠する大教室はただ今、二百人近くの生徒が収容されている。勿論、講義の為であるのだが、本来の目的が円滑に遂行されているとはお世辞にもいい難い。拡声器を通過して朗々と響く教諭の声を真面目に聞いているのは生徒はほとんどいない。ご多分に漏れず、私もついさっきまで教諭のお言葉など無視してノートの端に渦巻きを描いては消したりしていた。 理由は知らないが、手が熱かったのだ。品行方正が定められて監視されているわけでもないし、我慢する必要もなかったので欲求の赴くまま、金属製の机の引き出しに手を突っ込んだ。けれど、ひんやりと滲むお決まりの感触はそこにはなかった。つるりとした感触、と表現してしまうと金属と同じようになってしまうがいくらか温度が高く、肌に引っ掛かりがあって、どうやら紙製のようなのだ。 誰かの忘れ物かもしれないと、紙製の物体を取り出して私の時は止まった。 手の内にあるのは、学校の売店で売られている大学ノート。A4のノートの外装で一番目立つのは、上から七センチメートル程の所の中心に下線付きでnote bookとゴシック体で綴られている表題である。残りは勝手にメモでもしろといわんばかりに、上の表題から八センチメートル程間を空けて罫線が始まっている。遊び心一つない、書ければいいだろうと暗にいっているようなノートのはずだった。 名前も書いていないノートのロゴと罫線の隙間、大きな四角の中の小さな線なき四角形。人の意識が生み出す中抜き長方形の左端、つまりnの左斜め下の空間だった所。そこに黒い固まりがあった。黒のインクのみで構成されているのは薔薇と茨。迷いのない線で引かれて咲き誇る花と刺には滲みの一つもなく、私はインクの上に指を走らせる。 食いつく紙と、繊細に凹むインクの部分が細かく指紋の隙間を伝う。人差し指を残して握った利き手がじっとりと汗ばみ、紙との摩擦が増える。ふんだんに関節を使って人差し指を掌まで持ってくると、人差し指だけいやに冷えているのが分かった。
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