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クリエイター名 |
神楽坂司 |
コメント |
新しくOMCに参加させていただくことになった神楽坂司(かぐらざか・つかさ)です。主に現代を舞台にした小説(現代ファンタジー、学園)等を普段から書いています。苦手なジャンルは特にありませんが、SFを書く機会はあまりありませんでした。 まだまだ若輩ではありますが、よろしくお願い致します。 |
サンプル |
サンプル1
廃墟の中は、遠くから眺める情景に常々感じるもの以上の恐ろしさが充満していた。雷鳴が鳴り響き、稲光が割れた硝子の欠片を叩く瞬間ですら、そこを見やる者にとっては幸いだったろう。夜の腕に抱かれたその建物の外観は、とても常人の精神力では視覚に捉えることすら厭わしいようなものだった。辺りに漂う気配はもはや病的と言っても過言ではない代物で、ねじれて突き立てられた鉄骨は、さながらその建物自身が傷つけられた証であるかのようにも見えた。 内部に目を向けると、そこはさらに酷かった。まず、入り口付近に転がるきわめて奇妙なものに視線を奪われる。溶かされ、押し潰されてはいたものの、それは角灯に違いなかった。外壁に目をやれば、そこに一つたりとも原形を留める硝子はなく、ことごとくが偏執狂的なしつこさで割り砕かれている。覗き見える闇の中に転がる死体の群れは、耐え難い悪臭の発生源と成り果てていた。 「……愛すべきマイ・ホーム──ってか?」 累々と横たわる屍の群れを踏み越えて、神崎弘文は放心したような表情で歩みを進めた。彼の住居であるはずのこの建物──学習院大学跡地からは、故郷という言葉で誰もが想像するような優しさが感じられた試しがない。いつ訪れても、この空間には『死』が充満していた。 ふと──自分の姿を見下ろし、どうしようもない間抜けさに笑い出したくなる。体を覆うのは、古びた濃紺の鉄道員服だ。すり切れ、ほつれは数え切れない。ほとんど老齢と言ってもいい年代にさしかかった弘文には、しかしその服装が奇妙に似合っていた。顔に刻まれた皺も、思い出したように軋む体の節々も、全てがその古臭さ、やりきれなさを迎え入れているようだった。 踏み入る内部は暗く、時折静かな風が吹き抜けていく。その惨状は、幾つもの死に直面してきた弘文にすら最悪の事態を予想させるに十分なものだった。コンクリの床は灰色の埃に埋まり、古びた壁にはしおれた植物のツタが絡み、体を粉々に砕かれた人間の死体が無数に転がって腐敗している。とりわけ弘文の神経を激昂させたのは、その死体の山を作り出したのが自分であり──そして自分の仲間であるという、覆しようのない事実だった。
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