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クリエイター名 |
あるてみす |
コメント |
あるてみすと申します。得意分野はライトSF・ライトFT・現代で、歴史・時代・推理は苦手。戦闘も恋愛も可ですが、同性愛は不可。地の文はくどいですが、お気に召したらご依頼を。 |
サンプル |
竜翁
枯れ葉の堆積した斜面を、体重を掛けて踏み締めていく。 盛り上がった木の根にスニーカーを引っ掛けて体を持ち上げると、かすかに滲んだ汗が冷たい風に拭われた。呼吸を整えてから振り返ると、広大な草原が一望出来た。眼下には青々とした木々が茂っており、山もまた豊かだった。草原を吹き渡る風の中には牧場の敷地の中を駆け回る馬の蹄の音や、高い空を巡る鳥の甲高い鳴き声が含まれていた。湿った土の匂いが混じった空気を肺に詰め込んでから、カナコはショートカットの髪の襟足を払い、首筋の汗を拭った。 カナコは振り返り、太い木々の奥に隠れた洞窟を見定めると、好き勝手に伸びている雑草を足で払いながら足を進めた。ツタの這う斜面にぽっかりと口を開けている洞窟に入ると、暖かな外気よりも湿っていて冷ややかな空気が肌を舐めた。入り口から差し込む日光以外には光源がないため、かなり暗かったが、慣れた場所なのでカナコは足元も見ずに歩いた。しばらく歩くと、洞窟の奥に岩盤ではない遮蔽物が現れた。それは、首が痛くなるほど見上げても見上げきれない扉だった。全長十メートル以上はあろうかという重厚な物体であり、雑多な木材や金属などを寄せ木細工のように組み合わせて造られたものだった。 カナコはその扉を乱暴にノックしてから、背中で思い切り押したが、扉自体の凄まじい重量に負けて足が滑ってしまった。バスケットを落とさないように抱え直してから再度背中で扉を押してみるが、その努力も空しく、扉は一ミリも動かなかった。 「いい加減にしろよ…」 カナコは小さく毒突いてから、目下の障害である扉を全力で押し開こうとすると、遙か頭上でドアノブがぎぎぃと捻られた。耳障りな騒音の後、厚さ二十センチはあろうかという分厚い金属板で出来た蝶番が動き、埃混じりの火花が飛び散った。
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