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ema |
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emaと申します。 よろしくお願いします。 |
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サンプル 東京怪談編
――汚い店だな。 玄関の扉から吊られたベルを揺らしながら、足音もなくそのアンティークショップに訪れた少年の目は、あからさまにそう言っていた。 チャイナドレスに入った深いスリットから、惜しげもなく艶めかしい足を晒している若き店主、碧摩蓮(へきま れん)は、自分用の揺り椅子に腰を沈めた。そして傍らのカウンターに乗っていたキセルを手に取ると、それに火を点け一服する。久々にやってきた客を、じっくり値踏みするために。 やや身体の線が細いことを除けば、外見的な特徴など一つもなさそうであった。平凡な髪形、平凡な顔、平凡な身長で、神聖都学園というマンモス校のブレザーを着ていた。学校帰りだろうか。壁際の柱時計は午後四時半を指している。まあ誰でも気軽に入れる店ではないのだから、何かしらの資質はあるのだろうが。 半ば趣味で開いているこの店には、世間一般で言うところの曰く因縁付きの品が統一感なく並んでいる。無造作に配置された商品群の中には、文字通り所有者に害をもたらすような物も多く存在していた。 店内にキセルの香りが充満する頃、ようやく店主の存在に気付いたらしいその客が蓮を一瞥した。はっきりと視線がぶつかったが、初めから何も見なかったかのような無関心ぶりで客は商品に向き直ってしまう。元より偏屈な客ばかりが利用する店ので、気分を害することもない。
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