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ラブレター代筆します(汗)



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OPEN - 高原恵
●サンプル1

『月夜の闇』


 新興都市オルキア。約百二十年の歴史を持つルーロンス王国で、約二十年前に造られた都市。その郊外にその屋敷はあった。決して大きいとは言えない。だが、立派な作りの屋敷ではあった。ある神殿の高司祭はその屋敷をこう呼んだことがある――『花の館』と。


「お嬢様。どちらですか、シーラお嬢様」

CLOSE - 樹シロカ
●ノベルサンプル1(ファンタジー風・やや硬め)

『赤い小瓶』

 月の明るい夜だった。
 ひとりの旅の傭兵が、今夜の寝床に決めた古い崩れかけた神殿で、ボロ布に火をつけようとしていた。
 何故か上手く火がつかず、油を垂らそうと荷物に手を伸ばし、鋭い視線を辺りに向ける。すぐ傍の倒れた石柱の影に、何かの気配を感じたのだ。
 傭兵は手の届く所にある槍に手を伸ばし、意識を研ぎ澄ます。
 その時だった。

●ノベルサンプル2(現代乙女ゲーム風・柔らかめ)

『完璧超人と私』

 寒い。右足が痛い。かばんが重い。
「はぁ……ついてないなぁ、もう」
 まさか高1の若さで教室の掃除で足をくじくなんて。私ってば、どこのおばあちゃんなのよ。
 保健室で一応湿布を貼ってもらったけど、それですぐに治るわけじゃないしね。
 いつもはどうってことないバス停までの距離と、バスを降りてからの距離に絶望してしまう。

CLOSE - 蒼木裕
●サンプル1

+ 本日飴模様 +
※ ほのぼの恋愛系



 こつん。


CLOSE - 深海残月
●突き放し系客観描写、闇色シリアス系(暫定サンプル)

 人々の歩く姿が未だある。
 喧騒がまだ残る。
 旅装の者が立ち寄る小さな集落。
 そこに至る道。
 自分の踏み締める大地――足許を改めて気にする事もせず、旅人がひとりまた、その位置を、歩き過ぎる。
 少し、天気が崩れそうだ。
 こんな場所でそう思えば、誰でも早足になるのが道理の事で。

CLOSE - 水月小織
●BAROQUE前史 20XX Homicide

 梅雨独特のまとわりつくような不快感。
 昨日も今日も雨…エアコンをつけてない室内は蒸し暑く、学校から帰宅したばかりの僕の神経を苛立たせる。
 時間は午後3時。僕は制服を着替えるのもそこそこにテレビのスイッチを入れた。テレビでは、ちょうどこの前起こった猟奇殺人の話題にさしかかったろうとしていたところだった。CMの間に制服の前ボタンを全部開け、冷蔵庫から飲み物を出しその話題が出るのを待つ。
 ……世間ではこのところ低年齢層による犯罪や、猟奇的犯罪の話題でにぎわっている。
 それは何かが崩れるようにゆっくりと、そして確実に僕たちの世界を侵蝕している。
「このような低年齢層の犯罪は昨年より増えつつあり……」
 精神科医の鑑定、コメンテーターの知ったかぶりな台詞。心理学者の意見に、ちょっと前に出た猟奇小説への批判…。

CLOSE - 小湊拓也
●武装ヒーローと怪人少女

 むっちりと強靭な太股が、短いスカートを跳ねのけて躍動する。下着の清楚な白さを一瞬だけ露わにしながら、右ハイキックが一閃。ゾンビの1体が、蹴り砕かれて飛び散った。
 右足を着地させつつ、神崎サヤカは周囲を睨み、見回した。
 東京郊外の雑木林である。木陰から、直立した腐乱死体たちが群がって来つつある。
 彼らの散大した瞳が、じっとサヤカに向けられる。高校生女子にしては大柄な、凹凸のくっきりとした長身に、欲望の視線があちこちから貼り付いてくる。
 濃紺のブレザーと白のブラウスを、まとめて突き破ってしまいそうな胸の膨らみに。猛々しいまでの肉感が詰まった、左右の太股に。無数のゾンビたちが、ギラギラと見入っている。
 怯みのない眼光で見返しつつ、サヤカは微笑んだ。鋭く整った顔立ちが、ニヤリと不敵に歪む。額に鉢巻が巻かれた、凛とした感じの美貌。艶やかな黒髪は、背中を覆うほどに豊かである。
 神崎サヤカ、17歳。高校2年生。学業よりは、こうして仕事に励む日々を送っている。

CLOSE - 斎藤晃
●暗殺者の顔――

 凍てつくような寒空に蒼冷めた三日月が清冷とした光を大地に注いでいた。
 全ての天候をシステム管理されたCITYと違って、この自然保護区域――通称NATは、今尚、本物の月と太陽が空を巡り、地球の自転に則した自然を満喫出来る、この世界では数少ない場所の一つであった。
 とはいえこの場所を訪れる者はそう多くはない。せいぜい一部の観光ツアー客か余程の物好きくらいだろう。自然保護区域と言えば聞こえはいいが、その実、CITYから逃れてきた重犯罪者達で溢れる無法地帯だったのだ。
 そんな場所を、ましてや寒風吹きすさぶ夜更けに出歩く者などそうはいない。しかし枯れた林を抜ける一本の小道を一人の若い男が飄々と歩いていた。CITY特有の機能性に優れた紺色の外套を身に纏いフードを目深に被るその細身の体躯からは、とても腕に覚えがあるようには思われなかったが、無用心なのか、はたまたこの寒さに物取りも現れまいと高を括っているのか、男はライトを灯すでもなく月明かりの下、危なげない足取りでその枯れ林を抜けていた。
 そこへ一本の大木の影から一人の女性が男の行く手を遮るように現れた。赤いダウンジャケットに黒のホットパンツ姿で男の前に立ちはだかる女の手には、短剣が握られている。
 女は確認するように尋ねた。
「コードネーム、蒼……貴方ですね」

CLOSE - 朝臣あむ
●【蒼の記憶】

「蒼の記憶」


 咲き誇る梅の花。
 赤く美しい花の下で、焚き火が行われていた。
 パチパチと火花を散らす炎を老人が見つめている。
 手には古びた封筒と、アルバムが握られている。

●【怪奇事件】

【怪奇事件】

 やかましいほどの蝉の声。
 頭を焦がすほど強い太陽の光。
 熱を吸収しきれなくなった土が熱気を放ち、歩くたびに頬や額やらを汗が伝う。
 それをハンカチで拭えば、遥か彼方まで続く道が見えた。
 田んぼに囲まれた周囲を緑に囲まれた道。その先に、目的地である江西村という小さな村がある。

CLOSE - 柚木薫
●月の下で


「あなたはいつだってそうだわ。そうやって自分のことばかり主張して、他人の意見なんか聞こうともしない、最低の愚物ね」
 エリカのいつもの饒舌にすこしうんざりしながらもわたしはそれに反論すべくまた口をひらこうとしたけれど、でもまた口を閉じた。
 そんな行為をすこしおもしろがって見ていた。エリカはわたしにさらに言う。
「別にあなたのことを否定しているわけじゃないの。いつもいってるでしょう?私はあなたに好感を持っているのよ。好感をもつ相手をどうして突き放すの?私の言っているのは『警告』よ」
「『警告』?」
 やっと口から搾り出すように声をだしてエリカの声を反芻すると、その整った口を少し歪ませながら、

●月の夜と

 オリジナルノベル冒頭抜粋

部室の外はずいぶんと騒がしい。理由が学園祭であるからであって、この部室に誰も来ないのはなんいも催しものというものをやっていないからであって、さらにこの部屋には人が二人しかいないという理由からだろうと俺は推測する。
 現在の場所、東経、西経なんぞであらわせといわれても無理なので簡潔に言うと、文芸部室。東野高校東校舎二階の一番端にあてがわれたまぁ、綺麗だが、そんなどんづまりまで行く気はせんというなんとも客寄せが悪い場所で、意外にも広い部室の中ではかちゃかちゃとブラインドタッチレベル並、くらいでPCにむかっている少女がいる。
 部室はたてに細長く、十畳ほどで、真ん中には長机とパイプいすが4つ。原稿うちのためにかどこからガメてきたワープロ及びパソコンが5台。入って正面に窓があり、左右にはよくわからん雑誌などなどがつめられた本棚書棚が乱立してなぜかガスコンロがあり、そしてなぜかお菓子なんかも横の棚にある。
 そのお茶やらなんやらを飲みながらひたすらブラインドタッチレベル21くらいで打ち続ける少女は机のど真ん中で、さらにこの寒いのに暑いとブレザーを脱いで腕まくりまでしている、ところから俺はX軸方向に−3、Y軸方向に−・・・・すまんわかりずらい。つまり斜め向かいに座ってその「一生懸命お仕事してます!銀行員レベルマックス」少女を俺はぼんやりとほうじ茶をのみながら眺めていた。
「あー・・・・なぁ」

●鐘を鳴らす夜


オリジナルノベル冒頭部分 ライトノベル。部ごとの区切りで部ごとに主人公が変わる。




 事実のうちに危機に直面するというのはいつもあることだ。

CLOSE - りや
●男性一人称・3000字

 俺は何度だって言いたい。どうしてこうなった。どうしてこうなったんだよ!
「ヒロく〜んっ」
 語尾にハートマークでもついてそうな甘ったるい声。何気に高めだが別に見た目とミスマッチ、ってわけじゃない。その見た目はといえばこんなん現実であるか、って思ってたけどすれ違った男共が振り返り、酷いときには二度見三度見されることもある、ぐうの音も出ない絶世の美女。そんな可愛い女に名前、っつーか愛称を呼ばれて近寄られて、嬉しくない男がいるのかって普通は思うだろ? ……そいつが俺と同い年くらいだったらな、俺もうじゃうじゃ人がいるなかでも大声あげて踊り出したいくらい嬉しいだろうさ。
 だが現実なんて残酷なもんで。流れるように俺の腕に抱きついてキラキラした目で見上げてくるこの女、なんとおふくろの同級生である。つまり俺とは二回り近くも離れた年増ってわけだ。ガキから見たら年上なんて高が知れてる、なんて言うクソみたいな奴もいる。というか俺の幼馴染のアホだ。だが俺は声を大にして言いたいぞ。いくら二十歳そこそこにしか見えない容姿をしていようが同じクラスの女子の誰より可愛かろうが、親と同い年っていうのはどう考えてもアウトだろ、アウト!
 この光景はおふくろが同窓会に忘れ物をしていったことに端を発する。別に一回っきりってわけじゃないんだしいいじゃん、と俺は思ったのだが忘れていったのがよりにもよってそれをダシに盛り上がるらしいアルバムだった。今じゃ結構なズボラ人間へと堕落してしまったものの、昔は写真部の部長だったとかでかなりマメな性格だったらしく、おふくろしか持っていないような写真が今も綺麗に保存されていて絶対にいるとか言い出しやがった。だったら忘れるなよと、ここぞとばかりに文句を言ってやりたい気分だったが、そこはそれ、俺とおふくろは俺が生まれてからの長ーい付き合いなわけで。持ってきてくれたらお小遣いあげる、の一言に俺はあっさりその言葉を飲み込んだのだった。親になると子供の気持ちが分からなくなるとかドラマでよく聞く台詞だが、その点うちは分かりすぎるくらいに分かってる。例えば俺が秘蔵コレクションを出しっ放しのまま学校に行ったとき、やべぇって思って急ぎ帰ってきたらそっと隠し場所に戻してあったりな。とそれはさておき、上官の命令を聞く新米さながらに任務を承った俺はのこのこ会場へと出向き、会ってしまったわけだ。
 曰く、一目惚れ。自分でいうのも虚しいが、どう考えても人並み以上のものがない俺がその台詞を聞かされるとは、昔のクラスメイトの息子相手に詐欺か?詐欺なのか?と疑ったのもやむなしだろう。ここに関してはむしろ相手がぶっ飛んだレベルで年上だから動揺したような気もする。これが俺のストライクゾーンに入る年齢層の女だったら、詐欺だって確信してまともな対応も出来たはずだ。まあ物凄い勢いで動揺したせいで可愛い、とか言われて余計に惚れ込まれる羽目になったんだけどな。ここで俺はおふくろに、止めろよ!と超能力者じゃなくても伝わるレベルの念を送って助けを求めたのにあのババア、独身だし別にいいじゃないなどと言いやがって火に油を注ぐどころかガソリンをぶちまける結果になって。そんないたいけな息子を生け贄に差し出すような台詞をのたまった母親は当然ながら俺の味方なんぞしてくれるはずもなく、それどころか学生時代に親友だったらしいこの女に言われるまま俺の電話番号にメールアドレス、メッセージアプリのIDまで洗いざらい伝えやがった。俺は俺で別に自分のことをフェミニストだと思っているわけではないが、恋愛対象としてはアウトなだけで正直なところ人間としてはさすが魅力的な相手だと感じていたので罵倒は論外、ブロックするほどでもねーよなとなし崩しにメッセージを眺めていたら、何となく会うことになっていたりする。ま、まあ、職業が職業なだけに忙しくて何日かに一回しか連絡こねーし。さすが年季の入った社会人だけあって引くときはちゃんと引いてくれてる気がするしさ。ありっちゃあ、あり……ってこういう態度してるから余計にくっついてくんのか?
「あー、おばさんさぁ」

●女性一人称・4000字

 ――彼女は誰より死にたがりで、あたしは誰より死にたくなかった。利害が一致したなら契約を結ばない理由はない。これは、ただそれだけの話に過ぎない――はずだった。

 あたしが生きることに執着するようになったのは、子供の頃に病気にかかったせいだ。不治の病ではなかったけど、死ぬリスクもそれなりにある病気で痛い思いもいっぱいしたし、何より、心配してくれる気持ちは本物でも学校でこういうことがあった、誰と誰で遊んだなんて他愛のない話をメールで聞くのがつらかったのを今でもよく覚えてる。そのときのあたしには喉から手が出るほど欲しいものを友達は当たり前のように持っていて、凄く嫉妬して。ずるい、許せないって思ったから苦しくても頑張れたんだと思う。でも、それからあたしはよく生きることって何だろう、とふとした拍子に考えるようになり、その度に自分で納得のいく答えが出せずに微妙な気持ちを抱えることになった。ただでさえ入院期間が長くてどうしても浮きがちだったあたしは孤立することが怖くて、友達の前では昔と変わらない自分を演じていたけどそうすればするほど、どんどん本当のあたしと嘘のあたしでバラバラになる気がして。今だってそういう曖昧な部分に結論を見いだすことは出来ないままだけど、高校生ともなれば折り合いをつけることは出来て、明るい未来は存在しなくても痛い思いをするのには慣れてると、生きて答えを探し続ける道を選んだ。自分で言うのもどうかなと思うけどあたしは、それらのことを除けば何も変わったこともない普通の人間だ。ましてや霊感なんてないし特別にそういう存在も信じていなかった。でも目の前にそれが現れたなら信じるしかない。絶対に認められないっていうほどリアリストでもないしさ。まあ、幽霊とは違うみたいだけどね。他の人にも見えてるみたいだし。
 ちょっと洒落た、でもそれよりモデルかアイドルかっていうような格好いい男の人たちが従業員ということで噂になっている喫茶店に、あたしたちは腰を落ち着けていた。女子高生が群がる店なら騒々しくて話にもならない、と思いきや迷惑になるほど騒ぐ人は意外といなくて、みんなちらちらと目的の従業員さんを見ては熱心にスマホを操作している。もしかしたら隣に座っている人ともそっちで意思疎通しているんじゃないかって思うくらい。
 あたしの目の前に座っている彼女は意外なほどこの光景に馴染んでいた。髪の色も瞳の色も服装だって全く奇抜なものじゃないし、あたしだって彼女の力を目の当たりにしていなければ同じ年頃の女の子としか思わなかっただろうと思う。おかしいところはといえば鞄ひとつ持っていないこと。ここまでのそれほど長くもないやり取りから察するに、違和感なくこの世界の常識に通じているはずなんだけどもしかしたらこれ、お金は持っていなくてあたしが払わなきゃいけないパターンかな、と思って財布の中身を思い返してみる。大して注文はしていなかったと思うから多分きっと大丈夫なはず。動揺を顔に出さない代わりにテーブルの下で足をぶらつかせながら、飲み物が届くまでの少しの時間を沈黙で潰すのも何だか気まずくて、あたしは言葉を探した。
「えっと……あなたのいた世界ってどういう感じなの?」
 当たり障りのなさそうな、でも気になることを訊いてみる。テーブルとテーブルの間隔は広めだけど、誰が聞いているか分からないしちょっと抑えめのトーンで。頬杖をついて窓のほうに目を向けていた彼女はご丁寧なことに背筋を伸ばし、真っ直ぐとこちらに向き直ってくる。あたしもくつろいだ格好でいるのが申し訳なく思えて、居住まいを正した。

●男性三人称・3000字

 それは不意の出来事だった。視界がぐらりと不自然に歪んだかと思うと、肉体と精神の継ぎ目が切り離されたかのように、当たり前に存在しているはずの感覚が消失する。だが所詮は一瞬のものに過ぎない。躓きかけたのを何とか踏み留まって顔をあげるのと同時、前を歩いていた同行者が振り返るのが見え、ラキは舌打ちしたい衝動をなんとか飲み込んだ。
「――どうかしたか?」
 つい先日まで自ら牢に入り、他人との交流を全て拒絶していたとは到底思えない、冴えた瞳と明瞭な発声が真っ直ぐ向けられる感覚にはどうにも慣れそうもない。太陽の光を久しく浴びていなかった肌は人外じみて白く、色素の薄い髪に不規則に散らばる紫色は酷い勘違いをした格好つけのようだが、自主的に引き篭もっていたような人間にそんな手入れをする発想があるはずもなく、ひどく不自然な天然モノである。これで女ならかえって意識することもなく接することが出来たのかもしれないが、生憎と目の前にいる同行者は男だ。それもかなり痩身ではあるものの、ラキより余程上背はあるし、声質も相当低い部類に入る。高校三年にもなって未だに中学生と間違えられるという、心底腹立たしい経験をしているラキからすれば羨ましい限りの容姿だ。本人を前にしなくとも絶対に口にはしたくないことだが。
「別に、何でもねぇよ」
 ぐっと息を詰まらせ、ほんの僅か逡巡して。半ば睨みつけるように同行者の顔を見上げて言うと彼はわざとらしいくらい嘆息してみせた。
「お前って本当に嘘が下手なんだな」
「だ、誰も嘘なんかついてねぇし!」

●女性三人称・4000字

 今日も空は清々しいほどの快晴だ。その下に広がる一面の海も深く美しい蒼を湛えていて、この船に乗ってひと月ふた月と過ぎ去ってもずっと飽きない光景のような気がする。幸いにも船酔いには縁のない体質なので、用事がない間はいつでも眺めていたいくらいなのだが。
 一階ぶん高く造られた場所から手すりを掴み、軽く身を乗り出しつつ下に目を向ける。こだわりがないので仕事をするのには邪魔だろうと、切ろうとして止められた長髪が潮風に軽く揺られた。現実的にはそんな嬉しいものでもないと知ったその感触も、わざわざ忌み嫌うものでもあるまい。帰る目処もつかない現状、適度に諦めなければ生きるのも窮屈で仕方ないというものである。
 そんなことをつらつらと思う新人のマナは顔にまとわりつく黒髪を何とか手で宥めすかし、気持ちのいい空気に浸ることを許してくれない光景を姿勢悪くぼんやりと見下ろす。
 金属同士が擦れ合う、少し耳障りな音を立てているのは元いた世界ではお目にかかる機会のなかった本物の刀剣だ。最初こそ動揺して奇声をあげた恥ずかしい思い出があるが、今となっては見慣れてしまった、一応は訓練というていで行なわれている戦いのようなもの。しかし、マナは知っている。それは何となく格好のつく名称というだけであり、実体はくだらない口論から発展した喧嘩だったり、食事の余りを賭けた不毛な勝負だったり、単に能力を競い合うものだったり。要するに、基本的には平和で何も起こらない海上生活の暇潰しだ。限度を超えなければ金銭を賭けることもルールとして認められている。マナには何かとそうしたがる彼らの気持ちはさっぱり理解出来ないのだが、それは自分が女だからか全く以て遠い環境――異世界から来た人間だからか。当人にはどうにも判然としない。
 対峙しているのは二人の男だ。一人は申し訳ないことに未だ名前が不明だが、体格がいいという言葉をこれ以上なく再現していて、相対するもう一人も決して小柄ではないのだがそう錯覚しかねないほどの差が開いているように見える。マナから見てちょうど顔が見える位置にいる青年の名前は多分もう忘れようもない。ラリエ、と呼ばれる彼は短く切り揃えた赤髪を揺らし、荷物は少ないが見物人がちらほらいる狭いステージを縦横無尽に駆けつつ、体格差を上手く活かしているようだ。船員の平均を取ってまだ細いほうというだけであって、腕の筋肉などはプロ選手のそれにかなり近く、マナには一振りすらも大変な剣を身体の一部かのように操っているが、目を惹くのは動きよりその表情だろう。
(ホント、活き活きしちゃって)
 胸中で半ば呆れ混じりに呟く。だって、まるで悪ふざけをしている子供のようなのだ。年下だろうなと思っていたら年上で、今でもあまり実感はわかない。さすがに実戦の時にあんな顔つきをしていたら人格を疑って距離を置きたくなるがそんなことはないし、赤ん坊の頃から乗船していたという話は伊達ではなく、仕事のキャリアは一回り以上年上の乗員より長かったりして頼りになるのだが。マナは忘れない。空から、といって想像するほど高くはないが降ってきたときに彼にキャッチされて、無言でいきなり胸を掴まれたことを。幻かと疑った末の行動とは思えないとマナは思う。男所帯で免疫がないといっても、それはない。

●地の文のみ・3000字

 声に聴覚を刺激され、まるで覚醒するように意識を引き戻される。もっとも、人工的に生み出されたこの身体に魂と呼べるものが宿っているのかどうか、定かではないが。そうなるようにあらかじめ造られたものなら、例え好意を抱いていてもそれは愛情ではない。
 主人と呼ぶべき人物のその声は、ひどく小さく不明瞭なものだった。内部に搭載された多言語の辞書で何とはなしに検索してみても該当する言葉は見つからない。正確にはいくつかの候補は見つかったのだが主人がその言語に通じていたという記憶はなく、状況を鑑みても不釣り合いだったので除外した。最新のデータをダウンロード出来ていれば、結果はまた変わったのかもしれない。だが外界とは物理的にもネットワーク的にも遮断されて久しく、仮定したところで結局どうしようもないことだ。
 可動年数をとうの昔に過ぎている躯は緩やかに処理能力を鈍らせていて、判別不能と結論付けるまでに一分ほどを要す有様だ。その間にも視覚センサーは寝台の上に横たわる主人の姿を捉えていたのだが、平行処理すらままならずにいるので認識が一拍遅れる。不健康に痩せた腕が小刻みに震えながら伸ばされていて、何か求められているのだろうと外見だけはヒトに似せられた己のそれを近付けて触れ合った。生身であるはずの主人の皮膚は長い年月に傷み、温度も生から遠ざかりつつあるのが分かる。
 再び主人が何か声を吐き出した。声というより音に近いものだ。やはり、何事かは聞き取れなかった。ただ、唐突に破損したわけではないなら異様と表現するほかない光景が視界一杯に広がって。
 淡い燐光が、ひび割れた小指をかすめる。主人の身体から溢れるように発せられた様々な色の瞬きが意思を持っているかのようにこちらへと絡み付いてきて、何を感じたでもなく身を引こうとした偽物のこの躯に染み込んで。一人と一体の暮らしでは久しく使用していなかった喉の部分が僅かに振動した。

 痛くて苦しくて、置いていかないでと言いたかったけれど、何度もその言葉を飲み込んだ。孤独は優しい。何も与える必要がない代わりに与えられることもない世界をそう呼んでいいのかも分からなかったが、ただひとつ分かったことがあるとしたならそれは、人は一人では生きられないということだ。だから痛苦を紛らわせるためにあの人を写し取った人形を用意した。

CLOSE - 日向葵
●サンプル1


 噂が本当ならば、彼(か)の少年の年齢は十四歳。
 薄茶の髪に、黒いバンダナ。動きやすそうなローブに身を包んだ少年は、藍の瞳で不敵に微笑んでいた。
 人相の悪い屈強の男たちが十数名、少年の周りを取り囲んでいる。
 遠目ではあるが、見た限り少年は強そうではないし、むしろ細くて華奢に見えた。だがそれにも関わらず少年は、余裕綽々の表情で男たちに楽しげな瞳を向けていた。
「それでこそ呼び名に相応しいってものです♪」
 崖の上から少年を見下ろしていた少女が、クスリと小さな笑みを浮かべた。

●オリジナルFT小説「TEAR」より〜戦闘描写

 風が、掠めた。
 それが彼――フェルナンディアの放った数本の羽根であることに気付いたのは、アルドが駆けて行く先に目を向けた時だった。
 フェルナンディアが流れるような動作で腕を振る。直後、フェルナンディアの手元から飛ぶ数本の黒い影。
 ディスタはエレアに向かってにこりと笑みを向け、すぐに真剣な表情を見せた。
「エレアちゃんはここで待っててよ。すぐ終るからさ」
 ディスタが何か小さな呟きを漏らしたとほぼ同時に、周囲の緑が動く。木々は、まるでエレアを護ろうとするかのようにエレアの周囲を囲んだ。
「森の中で僕に喧嘩を売るなんて、命知らずとしか言えないな」

●東京怪談同人誌「空色の海」より〜ほのぼの

 その日も草間興信所は、賑やかだった。いつもに比べればたむろっている人数は少ないのだが、一人で数人分騒がしいのが来ているのだ。
 デスクの椅子に座ってため息をつくのは、興信所の主・草間武彦。
賑やかなお客に困ったような……けれど楽しそうな微笑を浮かべてお茶やお菓子を用意している武彦の義理の妹・草間零。
 何故かソファーに座らず、書類の散らばるデスクに落ち着いているのは押しかけ居候神様、桐鳳――幼い少年の姿をしているが、その正体は炎を司る鳥、鳳凰だ。いまどき珍しい和装で、髪と瞳はどこにでもいそうな黒と茶色。にこにこと温和に笑う表情は外見通りの年齢にも見えるが、けれど瞳の奥には、十歳かそこらの外見には似つかわしくない、大人びた光が見え隠れしている。
 騒ぎの中心となっているのはテーブルの上で頬を高潮させて熱心に喋る、ピンク色の髪と新緑の瞳の彩りと、まったく同じ姿形を持つ小さな二人。ただし小さいというのは外見年齢ではなくサイズそのもので、背には薄い半透明の羽がある――妖精というヤツだ。
「あのね、あのね」
「見ちゃったの。見ちゃったのっ」

CLOSE - 桐崎ふみお
●アナタの好きな色

貴方の好きな色


(あぁ…俺はどうしてこんなところにいるんだろう?)
 夕暮れ時、校舎の屋上からぼんやりと遠くを眺めながら雄太はそう思った。
 いや屋上に出てきた理由はわかっている。雄太は地学部員であり、此処は地学準備室上、れっきとした部活動場所であり、顧問の地学教師に頼まれた鉱石標本の整理にいい加減飽きてきたので気分転換がてら屋上に出てきたのだ、なんの問題もない。
(一体全体俺は何か悪い事をしたのだろうか)

CLOSE - 佐伯ますみ
●サンプル1 ホラー

『椅子の下』


「わんわん」
 一歳半を過ぎた息子が話す言葉のうち、よく口から飛び出すのがこれだ。
 犬はもちろん、他の動物や魚、キャラクターとして顔がある飛行機など、「人間以外の生物らしきもの」全般に対して使われる。
 最近、それらしきものがない空間に向かって「わんわん」と言うようになってきた。今もまた、空間を指差して「わんわん」と笑っている。一瞬、犬の霊でも視えるのだろうかと思った。しかし、「生物らしきもの」全般を「わんわん」と言っていることを考えると、つまりそこには必ずしも犬がいるわけではないということになる。

●サンプル2 SF

『SCARLET−VIII』


 ガシャンと大きな音を立ててQRH39が倒れた。長い手足を動かして立ち上がろうとするが、再び倒れてしまう。
「また転んだの?」
 一日に何度転べば気が済むのだろう、このポンコツは。ここにいるロボットの中で一番の古株のくせに、一番鈍臭い。私は作業を中断して彼を抱き起こした。
 私がテラフォーミングチームのチーフに選ばれ、メンバーを伴ってこの惑星に来たのは十年前のことだ。メンバーは人間が五十人、ロボットが二十体。十年の間にロボットは次々と入れ替わり、今では十年前からいるロボットは彼だけだった。

●サンプル3 コメディ

『よい子のヒーロー伝説2 −民間車検工JO−』


 五歳の娘が嬉しそうに自転車で遊んでいる。買ったばかりの自転車だ。これまでは親戚からもらったお下がりだったため、デザインも古くて娘はあまり乗ろうとしなかった。だがその自転車が壊れたので、思い切って新しいものを買ったのだ。それも、女の子が大好きな魔法アニメのキャラクターが描かれていて、娘が随分前から欲しがっていたものだ。毎日朝から晩まで「自転車に乗る!」と言ってきかないくらい、喜んでいる。
 今日も朝からずっと乗っていた。途中、昼食を食べるために家に入ったが、またすぐに外に出て遊び始めた。幼稚園の春休みは始まったばかりだが、きっと終わるまでこの調子で毎日過ごすのだろう。
「うわあーん!」
 突然、火がついたように娘が泣き始めた。

OPEN - 県 裕樹
●白い吐息の向こうに

 ン……
 心地よい微睡の中から、引き摺り出されるこの瞬間。
 前は、これが嫌で嫌でたまらなかった。
「……よし、今日もアタシの勝ちだね」
 何と戦っているんだか、そんな勝利とやらに意味なんかあるのか……等と脳内で自分に対して苦笑いを向けながら、目覚まし時計がヒステリックな音を立てないように、その頭を軽く撫でてやる。
 カーテンを開くと、漸く白み始めた空が見える。小さく蕾を付け始めた梅の木が、柔らかな光を受けてキラキラと輝いている。
 未だ甘い誘惑を投げ掛けて来る布団を勢いよく退けると、遠慮と云うものを知らない冷えた空気が薄い寝間着を貫いて、一気に眠気を取り去って行く。

●心の鏡

 私はどうして、こんなところを飛んでいるんだろう……
 まるでミルクの中を泳いでいるかのような、ハッキリとしない意識。目は覚めているし、耳も聞こえる。勿論、視界も良好。だが、意識が……と言うより、気力が底を付きかけて、ふわふわと風に流されるままに、状況に身を任せて宙に浮いているのだ。
「幾ら弱種とはいえ、私だってヴァンパイア……人間ぐらい、簡単に御し切れると思っていたのに……」
 ひとえに吸血鬼と言っても、様々な種類がある。有名なところでは、蝙蝠の姿を借りて夜の地上を闊歩する、ドラキュラ伯を筆頭とする種族。彼らには日光に弱いという弱点があり、行動できる時間帯は夜間に限られるが、その身体能力は人間の比ではなく、逆に夜間であればほぼ無敵と言って良かった。ニンニクや十字架に弱いという弱点が伝えられているが、それはあくまで俗説であり、彼らに十字架を見せたところで怯みもしないし、ニンニクの臭いを嗅がせたところで何の効果も無い。
 その他、人型を持たない獣型、果ては昆虫型なども存在していたが、その何れもが、力関係では人間を凌駕していた。そう、人間は吸血鬼に敵わない……これはもはや常識であった。ところが……
「まさか、あんな小さな女の子にすら敵わないなんて……私って、一体なんなのかしら……」
 彼女達の一族も、確かにヴァンパイアの一種ではある。が、吸血『鬼』と名乗る事が憚られるほど、弱い種族だった。無論、その体力や腕力には個体差があり、単純な力量では人間を凌駕する者もいる。だが、肝心な吸血鬼としての能力は『蚊』に近く、殆ど無力と言って良いほど弱かった。無論彼らには、変身能力も備わっていない。

●リセットボタンは何処ですか

「な……何だ、コレ!?」
 いつもと同じ時刻、いつもと同じ場所。そして周りにはいつもと同じ顔ぶれの知人たち。
 だが、ひとつだけ違う事があった。そこに居た人たちは、皆その『違う事』の前で各々にリアクションしていた。
「あーあ、やっぱりかぁ」
 こうなる事を、以前から予想していましたと言わんばかりに肩を竦める者。
「もう、探しても無駄だな。家に行ってもモヌケの空だろうぜ」
 その責任を追及しようとするが、既にどうにもならないという事を悟る者。

CLOSE - 佐野麻雪
●メチレン

メチレン



 子供のときのことを訊かれるのは苦手だ。
 真実を話しているのに、冗談だと思われるから。
(それならまだマシかもね)

CLOSE - 楠原 日野
●喫茶「セイギ」

 バイト先のピザ屋。そのすぐ近くの雑居ビル。そこの5階、一番奥の事務所前。
 現在時刻、12時半ジャスト――よし。予定通りというか、指定時刻ピッタリ。
 習慣的にノックをしようとして、手が止まる。
「危ない、ノックは不要、むしろしないでくれだったな」
 拳を崩しドアノブに手をかけ、ためらう事無く、一思いに押し開けた。
「お届けにーー」
 参りましたと、続けるつもりだった。

CLOSE - 九流 翔
●sample

「よぉ、久しぶりじゃん? いつ、こっち帰ってきたんだよ?」
「今朝」
 店に入るなり、顔見知りから声をかけられた。昔は心地よく感じられたそれも、今ではウザいとしか思えない。
「なあ、どこ行ってたんだよ?」
「北海道」
 カウンターのストゥールに腰掛け、バーテンダーにスコッチをダブルで注文する。
 酒を飲むようになったのはガキの頃だ。もっとも、今だってガキには変わりない。でも、昔はスコッチなんて飲まなかった。酒の味なんてわからずに飲んでいた。

CLOSE - 青谷圭
●愛しき故に

   「愛しき故に」

 目の前の光景が、信じられなかった。
 だけど手の平の感触が現実なのだと訴えてくる。
 ……どうして、こんなことになってしまったんだろう。



CLOSE - 藤城とーま
●オリジナルより抜粋

 K県、立浜市のとある繁華街。
 昼は街が惰眠を貪り、人はせわしなく活動する。
 そして夜こそこの街は目覚めて活動し、人は癒しを求め解放される。
 色とりどりのネオンや煌びやかに飾り立てた女性たち。
 久々に会った友人との明るい笑い声。
 莫迦騒ぎしながら人を押し退けてゆく若者。
 川べりに数件並んだ小さな小さな屋台の群。

CLOSE - 大樹
●サンプル1

少女は駆けていた。
ぜいぜいと呼吸が荒く、汗が目に入って痛い。だが体はどこか機械のようにただ繰り返している。足を出来る限り速く動かして速やかにこの場を離れなければならない。走る走る走る。
そこに感情は介在しない。それは義務だった。走らねばならない。走り続けねばゆるされない。
辺りは茫洋として暗かった。光とは何であっただろうか。
高い靴音がひっきりなしに響いている。少女は追い立てる靴音を振り払うように右へ左へと何度も曲がった。
人工的なセンサーライトだけが鈍く明滅している。
「――だ!」

●サンプル2

一歩足を踏み入れる度、身体に何かが浸透しては何かが吸い取られていくような錯覚を覚える。
かつん、かつん、己の靴音だけが響いている。
一度床石を踏み鳴らす度様々な方向から音が反射しては消えていった。
毎度のことながらこの回廊は永遠に続いているのではないかと訝む。
淀む闇と、精一杯存在を主張する靴音。
奥の奥、そこに気配がある限り、この空間には自分以外の生物は存在しない。それは、何者も存在するはずのない空間であるが故に。
自分と、

●愛しのストーカー

◆BL短編・一人称サンプル・ギャグ

まだ21時過ぎだというのに、大通りから一歩離れてしまえばもう真っ暗だった。
外灯は思い出したようにぽつぽつと立っていて、そのうちのいくつかは消えかかっている。
家に帰るにはどうしてもこの薄暗い道を通らなければならない。しかもすぐ横は竹林で、マンションが左隣にあるものの道路からは少し距離がある。
どう考えても女の子の一人歩きにはとても薦められないような場所だった。
毎日のように通っている慣れた道だが、不気味なものは不気味だ。


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