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クリエイター名 |
明神公平 |
コメント |
明神公平です。 小説はジャンル、登場人物に関わらずいつもいい意味で「人の期待を裏切る話」を書いていきたいと思っています。 イメージ的には常にシチュエーションノベル、という感じです。 読んだ後で少し不思議を感じたり、切なくなったり、けれど結局ほんのり幸せな気持ちになれるそんな物語が目標です。
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サンプル |
暗闇
暗闇
公園の時計はもう五時半を過ぎている。遊具は茜色に染まり地面に長い影を落としている。小さな、隠れ家のようなその場所で揺れているのは一つのブランコばかり。そのブランコには小さな少年が乗っていて、すぐ脇にはさらに幼い少年がうずくまって膝を抱えていた。 「お兄ちゃん」 幼い弟が膝を抱えたまま、泣き出しそうな声を上げた。しかしブランコを揺する少年は返事をしない。 「帰ろうよ」
片思い
片思い
黒目の部分に大きく刻まれた三日月。それは彼の、生まれたときからの傷であった。この傷によって目がまったく見えないというわけではなかったが、彼は片方だけの視力が極端に弱かった。そのため、自然片方の目だけに頼ってものを見ているせいか、藪睨みの面構えであった。 子供時代、球当ての授業があると彼はいつも的にされた。目の弱いほうから球を投げられると、どうしても反応が遅れてしまうからだ。同級生たちも彼の弱点には聡く気づいていたから、残酷にそちらから攻めたのである。 次第に彼は球技というものを憎むようになっていった。球当てだけではない、野球をしても内角へ投げられると彼は振り遅れたし、そもそも遠近感が取れないので高く上がった球を捕球することすらできなかった。敵味方と向かい合って行う競技は、弱かった。 そんな彼が中学に上がってから始めたのは、陸上の短距離だった。百米の直線を、ただ一人で駆け抜けるという運動に視力はいらない。下半身のばねと、獣のように敏感な反射神経があればそれでよかった。どちらも生まれつき持ち合わせていた彼は、学年が上がるにつれ成績を伸ばし、大会で記録を残すようにもなっていった。
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