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クリエイター名  電気石八生
コメント  
サンプル およそ10センチ

「ごめん、5分遅れたぁ! って、まさか早すぎっ? えっ? えっ?」
 18時55分。和久井夏緒が集合場所の駅前広場へ駆け込むと。
「5分遅れで合ってる。ほかの奴らはみんな急用だってさ」
 藍沢信治がやれやれって顔で、肩をすくめてみせた。
「……また、気とかつかわれちゃった感じ?」
「感じじゃなくて、気をつかわれてる」


「ぼっち」と「きり」の唄

「ふぃー」
 野太い息をついて、男はところどころへこんだ冑を頭からむしり取った。
「やれやれ、まだ耳鳴りがする」
 そのまま冑を横へ投げるが――地面に落ちる前に、白い手がそれをすくいあげた。
「やめてよ。怨念に触れたら山が穢れるじゃないの」
 投げ返された冑をあわあわと受け取って、男は怖々、それを見やり。


おにのけん

 雨はいつしか止んでいた。
 甲高くうねる強い風が、相対するふたりの男の頬をこすり、行き過ぎていく。
「すまぬな」
 がろがろと濁った声音を紡ぎながら、片方のやせ細った男が小さくよろめいた。
 病んでいる。それも、立つことすらままならぬほど重い胸患いを。しかし。
 どす黒く染まった顔のただ中、目尻のつり上がった両の眼は澄んだ光を宿し、強く輝いていた。その、不可思議な神々しさはまるでそう、稲荷狐のようだ。

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