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クリエイター名  いずみたかし
コメント  いずみたかしです。得意技はふんわりしたラブコメ、気持ちが温かくなるコメディ、近未来テイストの映画っぽいSF、少し位相のずれた現代ファンタジーなどです。逆に緻密なミステリーなどは苦手です。リズム感がある読みやすい文章を書くように心がけています。ちょっと変わった味付けで材料を調理することもできますので、ご用命の際には味付けもご指定下さいね。オーダーお待ちしています★
サンプル サンプル1

 アリシアがこれほどひどいヤツだとは思わなかった。待ち合わせの喫茶店の入り口には「ケーキ食べ放題六ドル五〇セント」と書かれた緑色の看板が無言で客引きをつとめてい
た。
 クリスは小さいときから遊園地が大好きだった。でも、こんな遊園地は大嫌いだ。クリスが案内されたテーブルの目の前には、ガラスケース越しに色とりどりのケーキが遊園地の乗り物のように楽しげに並べられていた。赤、黄色、ピンクとさまざまな色で飾り付けられたケーキは順序良く並べられていて、まるでおとぎの国のメリーゴーランドや乗り物のコーヒーカップのようだった。
「あぁ、あんなケーキの中に埋もれてみたい……」
 いつの間にかクリスの口の端からよだれがこぼれ落ちそうになっていた。ふとガラスケースの向こう側の鏡を見ると、そこにはいつの間にかショーケースにへばりついてケーキを食い入るように眺めているみっともない自分の姿が映し出されている。
 いけないいけない。そう思いながら、クリスは自分が座っていた席へと戻っていった。オーダーしていたミルクコーヒーを口にしながら、まだ姿を現さないアリシアのことを考える。今日も彼女は栗毛色のソバージュの髪でにこやかに姿を現すのだろう。顔では笑っていたとしても中身は悪魔の女の子だ。こんなに誘惑の多い場所で待ち合わせをしなくてもよさそうなのに。


サンプル2

 霧の向こうには小宇宙があった。火星が海を持ったような真っ赤な宇宙が熱い液体分子を流動させ、その成長と破裂の一連の過程を脈々と繰り返し続けている。音を立てて泡立つ血のように紅い海の中には、今にも落盤で崩れそうなぼさぼさのピンクの肉片と、炭坑で食べるランチのように少しくすんだ白菜が、鍋の表面いっぱいに、所狭しと浮かべられている。
 探索隊であるシャラドとキタの二人の女性は、言葉もろくに通じない辺境の地で、テーブルに出された到底食べ物とは思えない「何か」を、興味深げに眺めていた。裸電球のオレンジの淡い光だけがほんのりとあたりを照らし続けている。
「キタ、これ、食べ物だよなぁ?」
「ええ、辺境の地ですから、食べ物はそんなに豊富ではないのだと思いますよ」
 シャラドは腰に付けていた四角い携帯端末を取り出すと、念のためにもう一度だけ伝搬状態を確認した。
「だめだぁ。ナローバンド通信網ですら届かない、って、何食べてるんだよ!」


サンプル3

 天井からオルゴールの音が舞っている。小さな銀色のメリーゴーランドが回っている。
 大理石がつややかな床の部屋には、髪の長い女がひとり、細かい彫り物が施されているラシャ張りの椅子に座り、揺りかごをゆっくりと前に後ろにと揺り動かしている。女は子守歌を歌うこともなく、ただうっすらと笑みを浮かべながら、木の揺りかごをゆっくりと動かしている。
 オルゴールの切ない音色だけが傾いた肖像画の男の前を流れてゆく。金色の光の飛沫が舞うように、細い天窓から神々しい一条の明かりがまっすぐに差し込んでいる。揺りかごと女はまるで天国から降りてきたかのようである。
 女は私の方を見ると頬をゆるめた。血色の良いふくよかな頬が女の育ちの良さを語っていた。
「あなた、クリスはよく眠っているわ」
 その女は細い声で一言だけそう話すと、また揺りかごを揺らし始める。女はゆっくりと目を閉じて、何かを懐かしんでいるかのような表情で右手を前へ後ろへと動かしている。


サンプル4

 綾美はショッピングモールの吹き抜けの八階にある手すりにひじをついて、どこへともなく流れて行くジングルベルを聞きながら、各フロアを行き交う人々の姿をぼんやりと追っていた。
 待ち合わせをしたショッピングモールはまるでガラスのお城のようだった。吹き抜けの中央には、光ファイバーの細工で組み上げられた大きな大きなクリスマスツリーが立っていた。目の前にあるツリーのてっぺんには黄色いレーザー光が空中に像を結び、ちょうど星が空中に浮いて、くるくる回って見える。
 八階から吹き抜けを見下ろすと、たくさんのカップルが、寄り添うようにしてロマンチックなウインドウショッピングを楽しんでいる。時折、ツリーの方を指さして感嘆の声を上げている。幸せそうな顔のカップルが視線の先を通りすぎていくたびに、綾美の胸はちくりと痛む。
「よ、お待たせ」
 後ろから聞き覚えのある少し太い声がかかる。綾美は振り返らずに、うん、とだけ返事をした。
「どうしたんだよ?」

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