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クリエイター名 |
りや |
コメント |
主にファンタジーや現代モノを書いております、 りやと申します。どうぞ宜しくお願い致します。
シリアスやダーク、また、ほのぼのと甘い傾向が強めです。 反対にギャグ(特に恋愛に依存しない形)は苦手としております。 恋愛要素に関しては女性から男性への女性視点が得意で、 逆に女性が複数の男性に好かれるシチュエーションは 不得意になります。女性向け(男×男)はどんとこいです。
ひたすら言葉のリズムと情緒ある作品に命を懸けてます。 |
サンプル |
男性一人称・3000字
俺は何度だって言いたい。どうしてこうなった。どうしてこうなったんだよ! 「ヒロく〜んっ」 語尾にハートマークでもついてそうな甘ったるい声。何気に高めだが別に見た目とミスマッチ、ってわけじゃない。その見た目はといえばこんなん現実であるか、って思ってたけどすれ違った男共が振り返り、酷いときには二度見三度見されることもある、ぐうの音も出ない絶世の美女。そんな可愛い女に名前、っつーか愛称を呼ばれて近寄られて、嬉しくない男がいるのかって普通は思うだろ? ……そいつが俺と同い年くらいだったらな、俺もうじゃうじゃ人がいるなかでも大声あげて踊り出したいくらい嬉しいだろうさ。 だが現実なんて残酷なもんで。流れるように俺の腕に抱きついてキラキラした目で見上げてくるこの女、なんとおふくろの同級生である。つまり俺とは二回り近くも離れた年増ってわけだ。ガキから見たら年上なんて高が知れてる、なんて言うクソみたいな奴もいる。というか俺の幼馴染のアホだ。だが俺は声を大にして言いたいぞ。いくら二十歳そこそこにしか見えない容姿をしていようが同じクラスの女子の誰より可愛かろうが、親と同い年っていうのはどう考えてもアウトだろ、アウト! この光景はおふくろが同窓会に忘れ物をしていったことに端を発する。別に一回っきりってわけじゃないんだしいいじゃん、と俺は思ったのだが忘れていったのがよりにもよってそれをダシに盛り上がるらしいアルバムだった。今じゃ結構なズボラ人間へと堕落してしまったものの、昔は写真部の部長だったとかでかなりマメな性格だったらしく、おふくろしか持っていないような写真が今も綺麗に保存されていて絶対にいるとか言い出しやがった。だったら忘れるなよと、ここぞとばかりに文句を言ってやりたい気分だったが、そこはそれ、俺とおふくろは俺が生まれてからの長ーい付き合いなわけで。持ってきてくれたらお小遣いあげる、の一言に俺はあっさりその言葉を飲み込んだのだった。親になると子供の気持ちが分からなくなるとかドラマでよく聞く台詞だが、その点うちは分かりすぎるくらいに分かってる。例えば俺が秘蔵コレクションを出しっ放しのまま学校に行ったとき、やべぇって思って急ぎ帰ってきたらそっと隠し場所に戻してあったりな。とそれはさておき、上官の命令を聞く新米さながらに任務を承った俺はのこのこ会場へと出向き、会ってしまったわけだ。 曰く、一目惚れ。自分でいうのも虚しいが、どう考えても人並み以上のものがない俺がその台詞を聞かされるとは、昔のクラスメイトの息子相手に詐欺か?詐欺なのか?と疑ったのもやむなしだろう。ここに関してはむしろ相手がぶっ飛んだレベルで年上だから動揺したような気もする。これが俺のストライクゾーンに入る年齢層の女だったら、詐欺だって確信してまともな対応も出来たはずだ。まあ物凄い勢いで動揺したせいで可愛い、とか言われて余計に惚れ込まれる羽目になったんだけどな。ここで俺はおふくろに、止めろよ!と超能力者じゃなくても伝わるレベルの念を送って助けを求めたのにあのババア、独身だし別にいいじゃないなどと言いやがって火に油を注ぐどころかガソリンをぶちまける結果になって。そんないたいけな息子を生け贄に差し出すような台詞をのたまった母親は当然ながら俺の味方なんぞしてくれるはずもなく、それどころか学生時代に親友だったらしいこの女に言われるまま俺の電話番号にメールアドレス、メッセージアプリのIDまで洗いざらい伝えやがった。俺は俺で別に自分のことをフェミニストだと思っているわけではないが、恋愛対象としてはアウトなだけで正直なところ人間としてはさすが魅力的な相手だと感じていたので罵倒は論外、ブロックするほどでもねーよなとなし崩しにメッセージを眺めていたら、何となく会うことになっていたりする。ま、まあ、職業が職業なだけに忙しくて何日かに一回しか連絡こねーし。さすが年季の入った社会人だけあって引くときはちゃんと引いてくれてる気がするしさ。ありっちゃあ、あり……ってこういう態度してるから余計にくっついてくんのか?
女性一人称・4000字
――彼女は誰より死にたがりで、あたしは誰より死にたくなかった。利害が一致したなら契約を結ばない理由はない。これは、ただそれだけの話に過ぎない――はずだった。
あたしが生きることに執着するようになったのは、子供の頃に病気にかかったせいだ。不治の病ではなかったけど、死ぬリスクもそれなりにある病気で痛い思いもいっぱいしたし、何より、心配してくれる気持ちは本物でも学校でこういうことがあった、誰と誰で遊んだなんて他愛のない話をメールで聞くのがつらかったのを今でもよく覚えてる。そのときのあたしには喉から手が出るほど欲しいものを友達は当たり前のように持っていて、凄く嫉妬して。ずるい、許せないって思ったから苦しくても頑張れたんだと思う。でも、それからあたしはよく生きることって何だろう、とふとした拍子に考えるようになり、その度に自分で納得のいく答えが出せずに微妙な気持ちを抱えることになった。ただでさえ入院期間が長くてどうしても浮きがちだったあたしは孤立することが怖くて、友達の前では昔と変わらない自分を演じていたけどそうすればするほど、どんどん本当のあたしと嘘のあたしでバラバラになる気がして。今だってそういう曖昧な部分に結論を見いだすことは出来ないままだけど、高校生ともなれば折り合いをつけることは出来て、明るい未来は存在しなくても痛い思いをするのには慣れてると、生きて答えを探し続ける道を選んだ。自分で言うのもどうかなと思うけどあたしは、それらのことを除けば何も変わったこともない普通の人間だ。ましてや霊感なんてないし特別にそういう存在も信じていなかった。でも目の前にそれが現れたなら信じるしかない。絶対に認められないっていうほどリアリストでもないしさ。まあ、幽霊とは違うみたいだけどね。他の人にも見えてるみたいだし。 ちょっと洒落た、でもそれよりモデルかアイドルかっていうような格好いい男の人たちが従業員ということで噂になっている喫茶店に、あたしたちは腰を落ち着けていた。女子高生が群がる店なら騒々しくて話にもならない、と思いきや迷惑になるほど騒ぐ人は意外といなくて、みんなちらちらと目的の従業員さんを見ては熱心にスマホを操作している。もしかしたら隣に座っている人ともそっちで意思疎通しているんじゃないかって思うくらい。 あたしの目の前に座っている彼女は意外なほどこの光景に馴染んでいた。髪の色も瞳の色も服装だって全く奇抜なものじゃないし、あたしだって彼女の力を目の当たりにしていなければ同じ年頃の女の子としか思わなかっただろうと思う。おかしいところはといえば鞄ひとつ持っていないこと。ここまでのそれほど長くもないやり取りから察するに、違和感なくこの世界の常識に通じているはずなんだけどもしかしたらこれ、お金は持っていなくてあたしが払わなきゃいけないパターンかな、と思って財布の中身を思い返してみる。大して注文はしていなかったと思うから多分きっと大丈夫なはず。動揺を顔に出さない代わりにテーブルの下で足をぶらつかせながら、飲み物が届くまでの少しの時間を沈黙で潰すのも何だか気まずくて、あたしは言葉を探した。 「えっと……あなたのいた世界ってどういう感じなの?」
男性三人称・3000字
それは不意の出来事だった。視界がぐらりと不自然に歪んだかと思うと、肉体と精神の継ぎ目が切り離されたかのように、当たり前に存在しているはずの感覚が消失する。だが所詮は一瞬のものに過ぎない。躓きかけたのを何とか踏み留まって顔をあげるのと同時、前を歩いていた同行者が振り返るのが見え、ラキは舌打ちしたい衝動をなんとか飲み込んだ。 「――どうかしたか?」 つい先日まで自ら牢に入り、他人との交流を全て拒絶していたとは到底思えない、冴えた瞳と明瞭な発声が真っ直ぐ向けられる感覚にはどうにも慣れそうもない。太陽の光を久しく浴びていなかった肌は人外じみて白く、色素の薄い髪に不規則に散らばる紫色は酷い勘違いをした格好つけのようだが、自主的に引き篭もっていたような人間にそんな手入れをする発想があるはずもなく、ひどく不自然な天然モノである。これで女ならかえって意識することもなく接することが出来たのかもしれないが、生憎と目の前にいる同行者は男だ。それもかなり痩身ではあるものの、ラキより余程上背はあるし、声質も相当低い部類に入る。高校三年にもなって未だに中学生と間違えられるという、心底腹立たしい経験をしているラキからすれば羨ましい限りの容姿だ。本人を前にしなくとも絶対に口にはしたくないことだが。 「別に、何でもねぇよ」 ぐっと息を詰まらせ、ほんの僅か逡巡して。半ば睨みつけるように同行者の顔を見上げて言うと彼はわざとらしいくらい嘆息してみせた。 「お前って本当に嘘が下手なんだな」
女性三人称・4000字
今日も空は清々しいほどの快晴だ。その下に広がる一面の海も深く美しい蒼を湛えていて、この船に乗ってひと月ふた月と過ぎ去ってもずっと飽きない光景のような気がする。幸いにも船酔いには縁のない体質なので、用事がない間はいつでも眺めていたいくらいなのだが。 一階ぶん高く造られた場所から手すりを掴み、軽く身を乗り出しつつ下に目を向ける。こだわりがないので仕事をするのには邪魔だろうと、切ろうとして止められた長髪が潮風に軽く揺られた。現実的にはそんな嬉しいものでもないと知ったその感触も、わざわざ忌み嫌うものでもあるまい。帰る目処もつかない現状、適度に諦めなければ生きるのも窮屈で仕方ないというものである。 そんなことをつらつらと思う新人のマナは顔にまとわりつく黒髪を何とか手で宥めすかし、気持ちのいい空気に浸ることを許してくれない光景を姿勢悪くぼんやりと見下ろす。 金属同士が擦れ合う、少し耳障りな音を立てているのは元いた世界ではお目にかかる機会のなかった本物の刀剣だ。最初こそ動揺して奇声をあげた恥ずかしい思い出があるが、今となっては見慣れてしまった、一応は訓練というていで行なわれている戦いのようなもの。しかし、マナは知っている。それは何となく格好のつく名称というだけであり、実体はくだらない口論から発展した喧嘩だったり、食事の余りを賭けた不毛な勝負だったり、単に能力を競い合うものだったり。要するに、基本的には平和で何も起こらない海上生活の暇潰しだ。限度を超えなければ金銭を賭けることもルールとして認められている。マナには何かとそうしたがる彼らの気持ちはさっぱり理解出来ないのだが、それは自分が女だからか全く以て遠い環境――異世界から来た人間だからか。当人にはどうにも判然としない。 対峙しているのは二人の男だ。一人は申し訳ないことに未だ名前が不明だが、体格がいいという言葉をこれ以上なく再現していて、相対するもう一人も決して小柄ではないのだがそう錯覚しかねないほどの差が開いているように見える。マナから見てちょうど顔が見える位置にいる青年の名前は多分もう忘れようもない。ラリエ、と呼ばれる彼は短く切り揃えた赤髪を揺らし、荷物は少ないが見物人がちらほらいる狭いステージを縦横無尽に駆けつつ、体格差を上手く活かしているようだ。船員の平均を取ってまだ細いほうというだけであって、腕の筋肉などはプロ選手のそれにかなり近く、マナには一振りすらも大変な剣を身体の一部かのように操っているが、目を惹くのは動きよりその表情だろう。 (ホント、活き活きしちゃって)
地の文のみ・3000字
声に聴覚を刺激され、まるで覚醒するように意識を引き戻される。もっとも、人工的に生み出されたこの身体に魂と呼べるものが宿っているのかどうか、定かではないが。そうなるようにあらかじめ造られたものなら、例え好意を抱いていてもそれは愛情ではない。 主人と呼ぶべき人物のその声は、ひどく小さく不明瞭なものだった。内部に搭載された多言語の辞書で何とはなしに検索してみても該当する言葉は見つからない。正確にはいくつかの候補は見つかったのだが主人がその言語に通じていたという記憶はなく、状況を鑑みても不釣り合いだったので除外した。最新のデータをダウンロード出来ていれば、結果はまた変わったのかもしれない。だが外界とは物理的にもネットワーク的にも遮断されて久しく、仮定したところで結局どうしようもないことだ。 可動年数をとうの昔に過ぎている躯は緩やかに処理能力を鈍らせていて、判別不能と結論付けるまでに一分ほどを要す有様だ。その間にも視覚センサーは寝台の上に横たわる主人の姿を捉えていたのだが、平行処理すらままならずにいるので認識が一拍遅れる。不健康に痩せた腕が小刻みに震えながら伸ばされていて、何か求められているのだろうと外見だけはヒトに似せられた己のそれを近付けて触れ合った。生身であるはずの主人の皮膚は長い年月に傷み、温度も生から遠ざかりつつあるのが分かる。 再び主人が何か声を吐き出した。声というより音に近いものだ。やはり、何事かは聞き取れなかった。ただ、唐突に破損したわけではないなら異様と表現するほかない光景が視界一杯に広がって。 淡い燐光が、ひび割れた小指をかすめる。主人の身体から溢れるように発せられた様々な色の瞬きが意思を持っているかのようにこちらへと絡み付いてきて、何を感じたでもなく身を引こうとした偽物のこの躯に染み込んで。一人と一体の暮らしでは久しく使用していなかった喉の部分が僅かに振動した。
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