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クリエイター名  無言ダンテ
コメント   アンダーグラウンド&ノワール小説を得意としています。特に不得意な分野はありません。カドカワエンタテイメントNEXT大賞B評価、コスモス新人賞佳作、第46回・第47回北日本文学賞三次審査通過、インディーズストーリーフェスティバル入選。
サンプル 金髪とヒキコモリ

「ほれ、バイト代」
 兄貴は僕に、わざわざ封筒に入れた金を渡した。

 僕の面倒を見てくれていた両親が事故で死んで数ヶ月が経ち、もうどうすることもできなくなった僕のところにふらりと現れて、唐突に「お前、仕事手伝え」と兄は言った。
 小中高と私立の名門に通っていた僕と違って、兄貴は市内の中学校でも有名な不良で、中学を卒業してすぐ家を飛び出した。それからずっと連絡のひとつも寄こさず、両親の葬式にすら顔を出さなかったのに。
 だけどそんな兄貴のことを言えた義理じゃない。国立大の受験に失敗した僕は、十年以上部屋に引き篭もってしまったからだ。


粉雪

 ふわふわと舞う粉雪を掌で受けると、それはしんと融けた。わたしはただそれをじっと見詰めている。
 どうしてだろうか、あの方が帰ってくるように思えてしまう。それは間違いなく妄想に過ぎないというのに。
 年も明けて年始の挨拶回りがやっと終わった。独り身のわたしはただ父と母の後ろで笑っていただけだが、行き遅れであったとしても花は花らしい。
 年始から「良い相手がいるのよ」と、縁起も景気もいい話もあったが、それは丁重にお断りした。
「寒いと思ったら、降ってきやがったな」
「そうですねえ。ですが風物ではありませんか」


黄昏乙女

 逢魔が刻、繁華街から少し離れた小さな交差点にひとりの少女が膝を抱えて座っている。
 少女のつぶら瞳は、交差点を渡る人々を哀しげに見詰めていた。往来を行く人々はそんな少女に目を向けることはない。それぞれの日常をそれぞれに生きていた。
 きっと私のことなんて誰も見ていない、少女はそう思った。
「こんなところで、なにをしているの」
 不意に、少女の目の前に小さな男の子が座り込んだ。そして優しげな笑顔を浮かべ顔を覗き込みながらそう問う。
 少女は俯き深い溜息を吐く。そして小さく小さくこう応えた。




 蝶々になれるなんてありえない。あたしはどこまでいっても蛾でしかない。陽の下を気侭に舞うなんて、そんな自由は許されていないのだから。
 蛾には蛾の面子ってものがある。蜜を吸う口がないのだから、あたしらはただ飢えて死ぬのを待つしかない。だからその短い時間の中で、必死になって男を探す。男だけを求めるあたしらを、きっと蝶々は滑稽だと嗤うだろう。だけど、あたしらにはそれしか与えられていない。なのにそれ以外の何を求めろというのか。
 ひらひらと舞うだけでひとの目を惹き魅了するなんてそんなこと、あたしらにはできっこない。あたしらは暗闇の中で男の残り香をただ追い、必死にまぐわうだけだ。
 美しさは罪だ。だから蝶々はその存在自体が罪だ。あたしらは蛾だというだけで嫌われ、爪弾きにされ、踏み潰される。だけど、あたしら蛾が一体なにをしたというのだ。蛹から空に飛び立ち男を探すだけなのに、なんの罪があるというのか。
 蝶々はただ気侭に舞い蜜を吸い、ひとを魅了する。それは罪ではないのか。あたしらはただ、飢えるより前に男に抱かれたいだけなのに、命をつなげたいだけなのに。
 命をつなげることが罪というのならば、あたしら蛾を全て殺すがいい。連綿と継承してきたそれが罪だというのならば、あたしらほど罪深い存在はいないのだろう。ならば殺せ、どうか殺し尽くしてくれ。


鈍感ノルマ

 封が切られたランチボックスには、小さなサンドイッチが十切れほど収められていた。
 それはたった五切れだけなのに、僕にはとても重いものだった。

 文字だけで自分の気持ちを伝えるのは難しいことだと思う。特に伝える相手との関係が微妙であればあるほどに、その文章表現も微妙なものになり、結果として核心からは遠のき確固たる確信を得られなくなる。
 そういう意味でいえば、文字は口頭で伝える言葉と比べて、何と不完全で不都合なものなのだろうか。口頭での言葉は、それ単体だけではなく、そこに語気や表情、態度など、様々な要因が加わり、言葉に深い意図を持たせることができる。
 だが読書が好きな彼女にとっては、僕の文章は直接的過ぎて安易なものであるらしく、そして馬鹿な僕には、彼女の文章は意味深過ぎてその意図を探ることは難しかった。

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